社労士と社労士制度 よくある質問(Q&A FAQ)※掲載事項に関する一般の方からのご質問にはお答えしておりませんのでご了承ください。
社会保険労務士(社労士)はどのような仕事をしていますか。社会保険労務士と言われてもイメージが浮かばないのですが。
社会保険労務士の仕事といっても、仕事の性質上あまり目立つところに社会保険労務士がいない場合もあり、知らない人にはイメージしにくいかもしれませんね。このホームページの「ホーム」→「社会保険労務士とは」に記載がありますが、社労士の業務は非常に幅が広く、社労士個人によっても得意とする分野や仕事の仕方はかなり異なることもあります。代表的なものをいくつか下記に挙げます。労働・社会保険関係諸法令や労務管理に関する唯一の国家資格者として、社会保険労務士は多方面で活躍しています。
①事業所の労働・社会保険等に関する書類の作成、提出代行を行います。
例えば労働者を雇い入れた、あるいは労働者が退職しただけでも関係行政機関等に書類の提出が必要な場合があります。中小企業では上記の手続業務等を担当する従業員を置くことが困難な場合もあり、事業主自ら手続業務等を行なっていることもありますが、これは、手間がかかるだけでなく、間違いがあった場合の処理の負担等も大きいという問題があります。
労働保険や社会保険は、労災事故等があった場合や事業所外での傷病から従業員の能力開発等まで、様々な状況において従業員と会社を守り、支援する国の制度です。適正な手続が行われるかどうかが従業員の意欲やモチベーションに影響することもあります。専門家である社会保険労務士に委託することにより、経営の効率化につながります。
ある程度の規模がある事業所等においても、労働・社会保険関係諸手続を社会保険労務士に委託し、円滑で適切な処理がされることにより、事業主は経営資源を事業経営に集中できるというメリットがあり、社労士の存在が企業の経営基盤の強化に役立ちます。
また、雇用保険の事業として厚生労働省が設けている各種助成金制度は企業経営に有益なものですが、これらの助成金の提出代行を業として行うことができるのも社労士だけです。
②事業主の労務管理、人事制度等についての諸問題や労使トラブルについて相談に乗り、専門知識を生かして労務管理についてのコンサルタントとして指導、助言等を行います。また、就業規則、労働者名簿、賃金台帳等の作成等を行います。企業に働く「ヒト」なくして企業は成り立ちません。会社で社長さんと、社外の専門家らしき人が会社の規則や職場の安全等について話し合っていたら、その人は社労士かもしれませんね。
③国民年金、厚生年金保険についての相談を受け、手続を代行します。公的年金の手続を進めるには、いろいろな書類を揃えなければなりません。中でも障害年金等の手続は添付書類の準備に手間がかかる場合もあります。また、受給の手続を進めるうえで社労士の持つ専門知識や経験等が役立ちます。本来受給できる年金が、制度を知らなかったために受給できなかったということがないように、年金について疑問等があったら相談しましょう。
社労士の中には、年金、特に障害年金を専門として業務を行なっている者もいます。また、その専門知識を生かして年金事務所や街角の年金相談センター等で年金相談業務に従事する社労士もいます。
④労使トラブルが発生した場合、労働局や社労士会労働紛争解決センター等でのあっせん代理人として和解に向けて依頼人のために尽力します(特定社会保険労務士のみ)。裁判外紛争解決手続(ADR)には、裁判と異なり勝ち負けはありません。また、裁判より短時間で済む、比較的費用も安い、非公開である等の特徴があり、労働者と事業主双方にメリットがあるという面もあります。
⑤補佐人として弁護士とともに出廷・陳述が可能です。社会保険労務士は、補佐人として、労働社会保険に関する行政訴訟や個別労働関係紛争に関する民事訴訟において、弁護士とともに裁判所に出頭し、陳述することができます。
⑥労働法及び関係諸法令の専門家として、関係機関の依頼に応じ、研修、セミナー等の講師として活躍する社労士もいます。専門知識や経験等を活かし、啓発活動等を行うことも、社会保険労務士の重要な役割です。
社会保険労務士の業務に「労働・社会保険等に関する書類の作成、提出代行」がありますが、提出代行とは具体的にどのような業務になりますか。
社会保険労務士の業務として提出代行の対象となる書類は、労働社会保険諸法令に基づく申請書、届出書、報告書等の一切の書類です。社会保険労務士は、本来事業主等の提出義務者本人が行う労働・社会保険関係の書類等の提出手続に必要な全ての事務処理を本人に代わって行います。
単に事業主等に代わって提出するだけであればいわゆる「使者」ということになりますが、社会保険労務士が行う「提出代行」は、必要に応じて行政機関等に説明を行うことや、行政機関等からの質問に回答し、提出書類に必要な補正を行う等の行為まで含まれます。依頼人である事業主等は、書類の作成から提出までの一切を、専門家である社会保険労務士に任せることができるということになります。
なお、社会保険労務士が提出代行を行う際は、提出する書類等に記名押印しなければなりません。記名については「提出代行印」として定型印の規定があり、提出日や社会保険労務士の氏名等を提出書類の記載欄に押印します。また、記載欄がない場合は書類の欄外下部余白に押印することとされています。
提出代行印の押印等がされていない場合、提出先の行政機関等から書類等に対する質問、問合せ等が事業主等に対して行われることになります。提出代行印の押印等は、社会保険労務士の業務上大変重要な意味を持っているのです。
社会保険労務士の業務として社会保険労務士法に規定されている「事務代理」は、提出代行とどのような違いがあるのでしょうか。
社会保険労務士業務のひとつである労働社会保険諸法令に基づく申請書等の提出代行事務とは、提出義務者本人が行うべき申請書等の提出手続に必要な一切の事務処理を提出義務者本人に代わって社会保険労務士が行うことをいいます。一方、委任の範囲内で内容の変更等を行い得るのみならず、申請等について、当該申請等に係る行政機関等の調査又は処分に関する主張又は陳述を行い得るものを事務代理といいます。
言い換えると、提出代行は、提出手続を事業主の代わりに行うことから提出「代行」とされ、事務代理は、事業主の代理として、主張や陳述を行うことが含まれます。提出代行と事務代理では、対象となる業務の範囲が異なり、事務代理の対象となる業務については労働社会保険諸法令に基づく申請、届出、報告、審査請求、異議申立て及び再審査請求その他の事項として、その範囲は厚生労働省令で定められています。また、社会保険労務士が提出代行をする際に「提出代行印」を押印するように、事務代理を行う際は、提出する書類等に記名押印することについて「事務代理者」と表示した定型印の印影についての規定があり、提出日や社会保険労務士の氏名等を提出書類に押印することとされています。
なお、事務代理は、「代理」という表現を使っていても、民法上の「代理」とは異なり、代理人は代理した案件についての処分権はなく、代理の内容は申請等及びそれに関する行政機関等の調査、処分に対しての主張、陳述等の事実行為までとされています。
社会保険労務士が行政機関に書類を提出する場合には、添付書類を省略できるそうですが、どのような仕組みになっているのでしょうか。
社会保険労務士が作成した一定の申請書等については、その作成の基礎となった資料の添付、提示等の手続を簡略化し、社会保険労務士法第17条による付記をすることにより行政機関等において関係書類との照合を省略して差し支えないこととされています。「専門家が作成したのだから付記の内容を尊重しましょう」というものです。
対象となる申請書等は厚生労働省令で定められていますが、例えば雇用保険被保険者資格取得届や喪失届、雇用保険被保険者離職証明書、労働保険保険関係成立届、厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届等で、社労士が作成、付記をした場合には、作成の基礎となった資料(労働者名簿、出勤簿、賃金台帳)の添付を省略することができる扱いとなっています。また、付記の方法については、付記印の使用が印影の形状まで通達で規定されており、文書の「社会保険労務士記載欄」の近くの欄外余白等に押印することとされています。
ただし、付記がされている申請書等については関係書類との照合がすべて省略されるというものではなく、例えば、記載誤りや審査不備の多い社会保険労務士が作成したものである場合や不審な点がある場合等には関係書類との照合を行うこととされています。付記がされていても、関係資料との照合の省略は申請書等を受け付ける行政機関等の裁量によることになるため、社労士側としては、適確に業務を行うことで関係行政機関等との信頼関係を築くことが重要になります。
社労士は、業務上必要があれば、例えば顧客から相談を受けた事項に関して職務上請求書で個人情報の開示を請求することはできますか。
社労士は、その業務を遂行するために必要な範囲で、委任状がなくても「職務上請求書」を関係行政機関の窓口に提出することにより第三者の住民票や戸籍謄本を取得できることができますが、職務上請求書の使用が認められるのは、社労士の提出代行業務や事務代理業務に必要な範囲での戸籍法、同施行規則、住民基本台帳法、住民票省令、戸籍の附票令等に基づく戸籍謄本や住民票等の請求に限られます。それ以外の個人情報の開示請求等には使用できません。
職務上請求書の不正使用は、都道府県社会保険労務士会会則に定める処分の対象になり、悪質な場合は社会保険労務士法に定める懲戒処分を受ける可能性があります。
社会保険労務士が雇用保険関係届出の電子申請の照合省略を希望する場合に、従来は都道府県労働局ごとに申出をすることになっていたのが、平成30年から扱いが変わったと聞きました。照合省略の申出を行うメリットは何でしょうか。また、社会保険労務士事務所以外の事業所で勤務社労士が手続きをする場合はどのような扱いになりますか。
社会保険労務士が行う労働・社会保険関係届出業務についても、近年は電子申請が増えています。今後、手続きの電子化の進展により社会保険労務士の仕事のあり方も変化していく可能性があります。
ご質問の、社会保険労務士の雇用保険関係届出の電子申請に係る照合省略については、従来雇用保険関係届出の電子申請の照合省略を希望する場合、都道府県労働局ごとに行う必要があった申出について、平成30年2月1日以降は、社会保険労務士会を通じ管轄労働局に申出を行うことで、全国の公共職業安定所における照合省略を希望する申出があったものと取り扱われることになりました。既にいずれかの労働局から照合省略の承認がなされている社会保険労務士は、他の都道府県において改めて個別に申出を行わなくても、平成30年2月1日以降、全国の公共職業安定所に対する申請・届出について照合省略が可能となっています。照合省略についてのこのような取扱いは社会保険労務士が業として雇用保険関係届出を行う場合及び一般の事業所に勤務登録した社労士(「その他登録」は不可)がその事業所の従業員の関係手続を行う場合に限られています。一般の事業所に勤務登録した勤務社労士の場合、所属する事業所の従業員に関する手続が対象であり、例えばある会社にいくつか支社があり、そのうちの一つの支社に所属する勤務社労士の場合、本社や別の支社の従業員の手続については社会保険労務士として業務を行うことはできず、電子申請の照合省略の対象にもなりません。
なお、社会保険労務士が、過去の届出実績から適正な取扱いができず、照合省略を可能とする要件を満たさないと判断される場合には、照合省略の承認が撤回されることもあります。社労士にとって、適正に業務を行うことによる関係機関との信頼関係が重要であることは、電子申請においても変わりません。
社会保険労務士は、例えば労働者の賃金未払い等の問題について労働者から依頼があった場合に、労働者と共に、あるいは単独で事業所に行って、労働法関係の専門知識を生かして事業主に対し賃金を払うように主張、交渉等をすることはできますか。
弁護士法第72条で「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立、審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と規定されています。ご質問のように、社労士が労働者に代わって事業主との交渉を労働者の代理人として行い、主張、意思表示を行うことについては、特定社会保険労務士が裁判外紛争解決手続(ADR)のあっせんの場等で行う場合を除き、社会保険労務士法に根拠規定はなく、弁護士法72条に違反する(非弁行為)ことになります。
労働者ではなく事業主に依頼されて、労働者に対し意思表示を行うことについても同様ですので、注意が必要です。
社会保険労務士は、顧問先の事業主から依頼された場合、その事業所の従業員についての解雇や退職勧奨等の意思表示を、事業主に代わって行うことはできますか。
ご質問のような状況で、社会保険労務士に広範にわたる代理権は与えられておらず、個別の交渉で社会保険労務士が事業主の代理人になること等については、弁護士法第72条で禁止されています。弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができません。社会保険労務士が代理人となれるのは、特定社会保険労務士が個別労働紛争において裁判外紛争解決手続(ADR)のあっせんの場に立ち会う場合等に限られます。
また、解雇の問題については、労働契約法第16条によって相当性、合理性を欠く解雇は無効とされます。社会保険労務士が事業主に依頼されて解雇等の問題に関与する場合、労働社会保険諸法令に違反する行為について指示をし、相談に応じ、その他これらに類する行為をすることは社会保険労務士法第15条(不正行為の指示等の禁止)により禁じられていることを常に意識していなければなりません。
社労士が顧問先の事業主等の顧客から労務管理、労働・社会保険等に加えて税務についての質問、相談等をされた場合には、その社労士が税金についての知識もあれば、労働関係だけでなく税務相談についても答えて指導、助言等をしていいでしょうか。
社会保険労務士法第2条(社会保険労務士の業務)第1項第3号の「相談・指導」業務(3号業務)は社会保険労務士でなくても行うことができますが、税理士法に規定された「税務相談」の業務は税理士以外の者が行うことはできません。税理士でない者が税に関する相談を受け、それに答えて助言等をすると、税理士の独占業務の侵害とされることがあるため、注意しなければなりません。
中小企業庁で扱っている「補助金」についての申請書作成支援等の業務は、社会保険労務士が行うことはできますか。
中小企業庁で扱っている各種補助金については、社会保険労務士法に規定はなく、その意味で社会保険労務士の業務ではありません。また、他の士業の独占業務という扱いにもなっていませんが、各種補助金の申請については、中小企業の経営支援に関する専門的な知識、提案力、表現力等が要求されます。
社会保険労務士は、一人の経営コンサルタントとして補助金についての申請支援等の業務を行うことができるという扱いになります。