社労士と社労士制度 よくある質問(Q&A FAQ)※掲載事項に関する一般の方からのご質問にはお答えしておりませんのでご了承ください。
特定社会保険労務士と名乗っている人がいますが、それ以外の社会保険労務士との違いについて教えて下さい。
特定社会保険労務士とそれ以外の社会保険労務士の違いは、裁判外紛争解決手続(ADR)において、特定社会保険労務士は代理人になれるが、それ以外の社会保険労務士は代理人になれないというところです。特定社会保険労務士は、社会保険労務士の中から「厚生労働大臣が定める研修」を修了し、「紛争解決手続代理業務試験」に合格した者が、その旨を連合会に備える社会保険労務士名簿に付記しなければなることができません。
最近増加している個別労働紛争(労働者と会社側とのトラブル)において、その解決手段として、裁判外紛争解決手続(ADR)が注目されています。これは、裁判によらないで、当事者双方の話し合いに基づき、あっせんや調停、あるいは仲裁などの手続きによって、紛争の解決を図るというものです。
特定社会保険労務士は、トラブルの当事者の言い分を聴くなどしながら、労務管理の専門家としての知見を活かして、依頼者のために、個別労働関係紛争を簡易、迅速、低廉な「あっせん」等の手続きにより、和解に導くことを目指します。
なお、特定社会保険労務士であっても、依頼者の代理人となれるのは、労働局のあっせんや社会保険労務士会が運営する「社労士会労働紛争解決センター」でのあっせんの場等に限られ、例えば労働者と会社側のあっせんの手続きの開始から終了までの間に直接和解の交渉をすることはできても、あっせん以外での個別の交渉において代理人となることはできません。また、あっせん等の手続外で申請人等を代理して和解することも認められません。
個別労働紛争において、裁判外紛争解決手続(ADR)でのあっせんの申立を、労働者本人ではなくご家族の方等が行う場合、特定社会保険労務士はそのご家族の方の代理人になれますか。また、特定社会保険労務士が裁判外紛争解決手続において代理人となっている場合、その特定社会保険労務士の都合でその代理人業務を他の人に代理させることはできますか。
ご質問のような、労働者本人以外の方、例えば労働者の家族や、労働者が死亡した場合の相続人等が紛争当事者となる紛争については、特定社会保険労務士が行うあっせん代理業務の対象とはなりません。
特定社会保険労務士の代理人業務をさらに代理させることについては、あっせん代理業務について委任を受けた特定社会保険労務士が、他の者に当該業務を代理(復代理)又は代行させることは認められません。また、社会保険労務士法人(ここでは社員のうちに特定社会保険労務士がいる場合に限る)が受託したADRでの代理人としての業務を、その法人の使用人である特定社会保険労務士又は社員である特定社会保険労務士以外の者に代理させることはできません。
勤務する会社と労使トラブルになっているのですが、その会社の顧問社労士が特定社会保険労務士であれば、その社労士に個別労働紛争に関する裁判外紛争解決手続(ADR)について代理人になってもらうことはできますか。実は私はその社労士とは個人的に知り合いで、しかも会社の顧問社労士なので、その会社の労使トラブルについては事件を把握しやすいのではないかと思います。
話が少し複雑になりそうなので、便宜上、会社とトラブルになっているご質問の労働者の方をA、特定社会保険労務士をB、会社をC社としましょう。
このような状況では、その特定社会保険労務士Bは、例えばこの労使トラブルの事件(同一の事件)の解決についてC社から代理人としての業務を依頼されている場合は、社会保険労務士法第22条第2項第1号の規定(双方代理の禁止)により、この事件について労働者Aからの依頼を引き受けることはできないこととされています。その業務を受けることにより、特定社会保険労務士を信頼して依頼した顧客の信頼を裏切り、社会保険労務士の品位を失墜させることになるからです。
なお、このように、事件の一方の当事者の代理人になっているにもかかわらず、同一の事件の他方の当事者の代理人になること(双方代理)については、社会保険労務士法の規定だけでなく、民法第108条により禁止されているところです。
ご質問では、労働者Aは、C社との間でトラブルの発生により利害が対立しており、一方、特定社会保険労務士Bは、同一の事件についてC社から今のところ依頼を受けてはいないのかもしれませんが、Bは顧問先としてC社から報酬を得ており、BとC社との間には信頼関係があります。そのため、特定社会保険労務士Bは、AとC社との間の労使関係において紛争対立が発生している状況下で、Aからの依頼を受けるべきではありません。同一の事件で特定社会保険労務士Bが顧問社労士としてC社から相談・依頼を受ける可能性が高く、その場合、双方代理の禁止の規定に抵触する危険性があります。
ここで挙げた説明の事例と同一ではなくても、類似のケースで問題となることもあり得ますので、特定社会保険労務士の立場としても、職業倫理上十分注意が必要です。