勤務する会社と労使トラブルになっているのですが、その会社の顧問社労士が特定社会保険労務士であれば、その社労士に個別労働紛争に関する裁判外紛争解決手続(ADR)について代理人になってもらうことはできますか。実は私はその社労士とは個人的に知り合いで、しかも会社の顧問社労士なので、その会社の労使トラブルについては事件を把握しやすいのではないかと思います。

 話が少し複雑になりそうなので、便宜上、会社とトラブルになっているご質問の労働者の方をA、特定社会保険労務士をB、会社をC社としましょう。
 このような状況では、その特定社会保険労務士Bは、例えばこの労使トラブルの事件(同一の事件)の解決についてC社から代理人としての業務を依頼されている場合は、社会保険労務士法第22条第2項第1号の規定(双方代理の禁止)により、この事件について労働者Aからの依頼を引き受けることはできないこととされています。その業務を受けることにより、特定社会保険労務士を信頼して依頼した顧客の信頼を裏切り、社会保険労務士の品位を失墜させることになるからです。
 なお、このように、事件の一方の当事者の代理人になっているにもかかわらず、同一の事件の他方の当事者の代理人になること(双方代理)については、社会保険労務士法の規定だけでなく、民法第108条により禁止されているところです。
 ご質問では、労働者Aは、C社との間でトラブルの発生により利害が対立しており、一方、特定社会保険労務士Bは、同一の事件についてC社から今のところ依頼を受けてはいないのかもしれませんが、Bは顧問先としてC社から報酬を得ており、BとC社との間には信頼関係があります。そのため、特定社会保険労務士Bは、AとC社との間の労使関係において紛争対立が発生している状況下で、Aからの依頼を受けるべきではありません。同一の事件で特定社会保険労務士Bが顧問社労士としてC社から相談・依頼を受ける可能性が高く、その場合、双方代理の禁止の規定に抵触する危険性があります。
 ここで挙げた説明の事例と同一ではなくても、類似のケースで問題となることもあり得ますので、特定社会保険労務士の立場としても、職業倫理上十分注意が必要です。