社労士と社労士制度 よくある質問(Q&A FAQ)※掲載事項に関する一般の方からのご質問にはお答えしておりませんのでご了承ください。
社会保険労務士(社労士)はどのような仕事をしていますか。社会保険労務士と言われてもイメージが浮かばないのですが。
社会保険労務士の仕事といっても、仕事の性質上あまり目立つところに社会保険労務士がいない場合もあり、知らない人にはイメージしにくいかもしれませんね。このホームページの「ホーム」→「社会保険労務士とは」に記載がありますが、社労士の業務は非常に幅が広く、社労士個人によっても得意とする分野や仕事の仕方はかなり異なることもあります。代表的なものをいくつか下記に挙げます。労働・社会保険関係諸法令や労務管理に関する唯一の国家資格者として、社会保険労務士は多方面で活躍しています。
①事業所の労働・社会保険等に関する書類の作成、提出代行を行います。
例えば労働者を雇い入れた、あるいは労働者が退職しただけでも関係行政機関等に書類の提出が必要な場合があります。中小企業では上記の手続業務等を担当する従業員を置くことが困難な場合もあり、事業主自ら手続業務等を行なっていることもありますが、これは、手間がかかるだけでなく、間違いがあった場合の処理の負担等も大きいという問題があります。
労働保険や社会保険は、労災事故等があった場合や事業所外での傷病から従業員の能力開発等まで、様々な状況において従業員と会社を守り、支援する国の制度です。適正な手続が行われるかどうかが従業員の意欲やモチベーションに影響することもあります。専門家である社会保険労務士に委託することにより、経営の効率化につながります。
ある程度の規模がある事業所等においても、労働・社会保険関係諸手続を社会保険労務士に委託し、円滑で適切な処理がされることにより、事業主は経営資源を事業経営に集中できるというメリットがあり、社労士の存在が企業の経営基盤の強化に役立ちます。
また、雇用保険の事業として厚生労働省が設けている各種助成金制度は企業経営に有益なものですが、これらの助成金の提出代行を業として行うことができるのも社労士だけです。
②事業主の労務管理、人事制度等についての諸問題や労使トラブルについて相談に乗り、専門知識を生かして労務管理についてのコンサルタントとして指導、助言等を行います。また、就業規則、労働者名簿、賃金台帳等の作成等を行います。企業に働く「ヒト」なくして企業は成り立ちません。会社で社長さんと、社外の専門家らしき人が会社の規則や職場の安全等について話し合っていたら、その人は社労士かもしれませんね。
③国民年金、厚生年金保険についての相談を受け、手続を代行します。公的年金の手続を進めるには、いろいろな書類を揃えなければなりません。中でも障害年金等の手続は添付書類の準備に手間がかかる場合もあります。また、受給の手続を進めるうえで社労士の持つ専門知識や経験等が役立ちます。本来受給できる年金が、制度を知らなかったために受給できなかったということがないように、年金について疑問等があったら相談しましょう。
社労士の中には、年金、特に障害年金を専門として業務を行なっている者もいます。また、その専門知識を生かして年金事務所や街角の年金相談センター等で年金相談業務に従事する社労士もいます。
④労使トラブルが発生した場合、労働局や社労士会労働紛争解決センター等でのあっせん代理人として和解に向けて依頼人のために尽力します(特定社会保険労務士のみ)。裁判外紛争解決手続(ADR)には、裁判と異なり勝ち負けはありません。また、裁判より短時間で済む、比較的費用も安い、非公開である等の特徴があり、労働者と事業主双方にメリットがあるという面もあります。
⑤補佐人として弁護士とともに出廷・陳述が可能です。社会保険労務士は、補佐人として、労働社会保険に関する行政訴訟や個別労働関係紛争に関する民事訴訟において、弁護士とともに裁判所に出頭し、陳述することができます。
⑥労働法及び関係諸法令の専門家として、関係機関の依頼に応じ、研修、セミナー等の講師として活躍する社労士もいます。専門知識や経験等を活かし、啓発活動等を行うことも、社会保険労務士の重要な役割です。
社会保険労務士の業務に「労働・社会保険等に関する書類の作成、提出代行」がありますが、提出代行とは具体的にどのような業務になりますか。
社会保険労務士の業務として提出代行の対象となる書類は、労働社会保険諸法令に基づく申請書、届出書、報告書等の一切の書類です。社会保険労務士は、本来事業主等の提出義務者本人が行う労働・社会保険関係の書類等の提出手続に必要な全ての事務処理を本人に代わって行います。
単に事業主等に代わって提出するだけであればいわゆる「使者」ということになりますが、社会保険労務士が行う「提出代行」は、必要に応じて行政機関等に説明を行うことや、行政機関等からの質問に回答し、提出書類に必要な補正を行う等の行為まで含まれます。依頼人である事業主等は、書類の作成から提出までの一切を、専門家である社会保険労務士に任せることができるということになります。
なお、社会保険労務士が提出代行を行う際は、提出する書類等に記名押印しなければなりません。記名については「提出代行印」として定型印の規定があり、提出日や社会保険労務士の氏名等を提出書類の記載欄に押印します。また、記載欄がない場合は書類の欄外下部余白に押印することとされています。
提出代行印の押印等がされていない場合、提出先の行政機関等から書類等に対する質問、問合せ等が事業主等に対して行われることになります。提出代行印の押印等は、社会保険労務士の業務上大変重要な意味を持っているのです。
社会保険労務士の業務として社会保険労務士法に規定されている「事務代理」は、提出代行とどのような違いがあるのでしょうか。
社会保険労務士業務のひとつである労働社会保険諸法令に基づく申請書等の提出代行事務とは、提出義務者本人が行うべき申請書等の提出手続に必要な一切の事務処理を提出義務者本人に代わって社会保険労務士が行うことをいいます。一方、委任の範囲内で内容の変更等を行い得るのみならず、申請等について、当該申請等に係る行政機関等の調査又は処分に関する主張又は陳述を行い得るものを事務代理といいます。
言い換えると、提出代行は、提出手続を事業主の代わりに行うことから提出「代行」とされ、事務代理は、事業主の代理として、主張や陳述を行うことが含まれます。提出代行と事務代理では、対象となる業務の範囲が異なり、事務代理の対象となる業務については労働社会保険諸法令に基づく申請、届出、報告、審査請求、異議申立て及び再審査請求その他の事項として、その範囲は厚生労働省令で定められています。また、社会保険労務士が提出代行をする際に「提出代行印」を押印するように、事務代理を行う際は、提出する書類等に記名押印することについて「事務代理者」と表示した定型印の印影についての規定があり、提出日や社会保険労務士の氏名等を提出書類に押印することとされています。
なお、事務代理は、「代理」という表現を使っていても、民法上の「代理」とは異なり、代理人は代理した案件についての処分権はなく、代理の内容は申請等及びそれに関する行政機関等の調査、処分に対しての主張、陳述等の事実行為までとされています。
社会保険労務士が行政機関に書類を提出する場合には、添付書類を省略できるそうですが、どのような仕組みになっているのでしょうか。
社会保険労務士が作成した一定の申請書等については、その作成の基礎となった資料の添付、提示等の手続を簡略化し、社会保険労務士法第17条による付記をすることにより行政機関等において関係書類との照合を省略して差し支えないこととされています。「専門家が作成したのだから付記の内容を尊重しましょう」というものです。
対象となる申請書等は厚生労働省令で定められていますが、例えば雇用保険被保険者資格取得届や喪失届、雇用保険被保険者離職証明書、労働保険保険関係成立届、厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届等で、社労士が作成、付記をした場合には、作成の基礎となった資料(労働者名簿、出勤簿、賃金台帳)の添付を省略することができる扱いとなっています。また、付記の方法については、付記印の使用が印影の形状まで通達で規定されており、文書の「社会保険労務士記載欄」の近くの欄外余白等に押印することとされています。
ただし、付記がされている申請書等については関係書類との照合がすべて省略されるというものではなく、例えば、記載誤りや審査不備の多い社会保険労務士が作成したものである場合や不審な点がある場合等には関係書類との照合を行うこととされています。付記がされていても、関係資料との照合の省略は申請書等を受け付ける行政機関等の裁量によることになるため、社労士側としては、適確に業務を行うことで関係行政機関等との信頼関係を築くことが重要になります。
社労士は、業務上必要があれば、例えば顧客から相談を受けた事項に関して職務上請求書で個人情報の開示を請求することはできますか。
社労士は、その業務を遂行するために必要な範囲で、委任状がなくても「職務上請求書」を関係行政機関の窓口に提出することにより第三者の住民票や戸籍謄本を取得できることができますが、職務上請求書の使用が認められるのは、社労士の提出代行業務や事務代理業務に必要な範囲での戸籍法、同施行規則、住民基本台帳法、住民票省令、戸籍の附票令等に基づく戸籍謄本や住民票等の請求に限られます。それ以外の個人情報の開示請求等には使用できません。
職務上請求書の不正使用は、都道府県社会保険労務士会会則に定める処分の対象になり、悪質な場合は社会保険労務士法に定める懲戒処分を受ける可能性があります。
社会保険労務士が雇用保険関係届出の電子申請の照合省略を希望する場合に、従来は都道府県労働局ごとに申出をすることになっていたのが、平成30年から扱いが変わったと聞きました。照合省略の申出を行うメリットは何でしょうか。また、社会保険労務士事務所以外の事業所で勤務社労士が手続きをする場合はどのような扱いになりますか。
社会保険労務士が行う労働・社会保険関係届出業務についても、近年は電子申請が増えています。今後、手続きの電子化の進展により社会保険労務士の仕事のあり方も変化していく可能性があります。
ご質問の、社会保険労務士の雇用保険関係届出の電子申請に係る照合省略については、従来雇用保険関係届出の電子申請の照合省略を希望する場合、都道府県労働局ごとに行う必要があった申出について、平成30年2月1日以降は、社会保険労務士会を通じ管轄労働局に申出を行うことで、全国の公共職業安定所における照合省略を希望する申出があったものと取り扱われることになりました。既にいずれかの労働局から照合省略の承認がなされている社会保険労務士は、他の都道府県において改めて個別に申出を行わなくても、平成30年2月1日以降、全国の公共職業安定所に対する申請・届出について照合省略が可能となっています。照合省略についてのこのような取扱いは社会保険労務士が業として雇用保険関係届出を行う場合及び一般の事業所に勤務登録した社労士(「その他登録」は不可)がその事業所の従業員の関係手続を行う場合に限られています。一般の事業所に勤務登録した勤務社労士の場合、所属する事業所の従業員に関する手続が対象であり、例えばある会社にいくつか支社があり、そのうちの一つの支社に所属する勤務社労士の場合、本社や別の支社の従業員の手続については社会保険労務士として業務を行うことはできず、電子申請の照合省略の対象にもなりません。
なお、社会保険労務士が、過去の届出実績から適正な取扱いができず、照合省略を可能とする要件を満たさないと判断される場合には、照合省略の承認が撤回されることもあります。社労士にとって、適正に業務を行うことによる関係機関との信頼関係が重要であることは、電子申請においても変わりません。
社会保険労務士は、例えば労働者の賃金未払い等の問題について労働者から依頼があった場合に、労働者と共に、あるいは単独で事業所に行って、労働法関係の専門知識を生かして事業主に対し賃金を払うように主張、交渉等をすることはできますか。
弁護士法第72条で「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立、審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と規定されています。ご質問のように、社労士が労働者に代わって事業主との交渉を労働者の代理人として行い、主張、意思表示を行うことについては、特定社会保険労務士が裁判外紛争解決手続(ADR)のあっせんの場等で行う場合を除き、社会保険労務士法に根拠規定はなく、弁護士法72条に違反する(非弁行為)ことになります。
労働者ではなく事業主に依頼されて、労働者に対し意思表示を行うことについても同様ですので、注意が必要です。
社会保険労務士は、顧問先の事業主から依頼された場合、その事業所の従業員についての解雇や退職勧奨等の意思表示を、事業主に代わって行うことはできますか。
ご質問のような状況で、社会保険労務士に広範にわたる代理権は与えられておらず、個別の交渉で社会保険労務士が事業主の代理人になること等については、弁護士法第72条で禁止されています。弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができません。社会保険労務士が代理人となれるのは、特定社会保険労務士が個別労働紛争において裁判外紛争解決手続(ADR)のあっせんの場に立ち会う場合等に限られます。
また、解雇の問題については、労働契約法第16条によって相当性、合理性を欠く解雇は無効とされます。社会保険労務士が事業主に依頼されて解雇等の問題に関与する場合、労働社会保険諸法令に違反する行為について指示をし、相談に応じ、その他これらに類する行為をすることは社会保険労務士法第15条(不正行為の指示等の禁止)により禁じられていることを常に意識していなければなりません。
社労士が顧問先の事業主等の顧客から労務管理、労働・社会保険等に加えて税務についての質問、相談等をされた場合には、その社労士が税金についての知識もあれば、労働関係だけでなく税務相談についても答えて指導、助言等をしていいでしょうか。
社会保険労務士法第2条(社会保険労務士の業務)第1項第3号の「相談・指導」業務(3号業務)は社会保険労務士でなくても行うことができますが、税理士法に規定された「税務相談」の業務は税理士以外の者が行うことはできません。税理士でない者が税に関する相談を受け、それに答えて助言等をすると、税理士の独占業務の侵害とされることがあるため、注意しなければなりません。
中小企業庁で扱っている「補助金」についての申請書作成支援等の業務は、社会保険労務士が行うことはできますか。
中小企業庁で扱っている各種補助金については、社会保険労務士法に規定はなく、その意味で社会保険労務士の業務ではありません。また、他の士業の独占業務という扱いにもなっていませんが、各種補助金の申請については、中小企業の経営支援に関する専門的な知識、提案力、表現力等が要求されます。
社会保険労務士は、一人の経営コンサルタントとして補助金についての申請支援等の業務を行うことができるという扱いになります。
社会保険労務士が業務に関し違法行為や不正等の不適切な行為を行った場合に処分等をされることはありますか。また、不適切な行為としては、どのようなものがありますか。
社会保険労務士には、専門家としての知識や立場を悪用して不正を行わないように、守るべき義務等が定められています。その概略については下記のようになります。
①不正行為の指示等の禁止
社会保険労務士は、依頼を受けた企業等に不正行為について、指示をしたり、相談に応じたりしてはいけません。例えば、不正に保険給付を受けること、不正に保険料の賦課又は徴収を免れること、労働基準法、労働安全衛生法、雇用保険法、厚生年金保険法、健康保険法等に違反する行為を行うこと等は不正行為となります。
不正行為について、不正の具体的な方法を教えること、法令違反の行為の相談相手となること、法令違反の行為に肯定的な回答をすること等は、不正行為についての「指示」や「相談」とみなされます。
②信用失墜行為の禁止と罰則について
社会保険労務士は、社会保険労務士の信用又は品位を害するような行為をしてはいけません。社会保険労務士法や労働社会保険諸法令に違反する行為がこれに該当するのはもちろんですが、刑法上の犯罪行為その他非行についても該当します。
不正行為等を行った場合、社会保険労務士会からの注意勧告や処分、労働局等の調査を経て厚生労働大臣による業務停止や失格等の懲戒処分、司法手続により刑事罰(懲役・罰金)が科せられることがあり、社会保険労務士の業務を行うことができなくなる場合があります。
③情報発信の際に配慮すべき観点
ITの進歩、発展により、現代社会は様々な情報が氾濫する状況下にありますが、社会保険労務士は、その業務について、インターネット上などで、誇大な広告、利用者に過度の期待を持たせるような表現、その他利用者をあおるような不適切な表現を行わないように注意しなければなりません。
不適切な表現としては、例えば、助成金受給や年金受給手続代行について、「受給率〇〇%、成功率〇〇%」等の文言を使って利用者の期待をあおるようなことや、「成功報酬」等の言葉を用いることは、公的な制度において要件を満たすことにより支給が決定され、逆に要件を満たさなければ支給されない各種給付にはふさわしくありません。また、労働・社会保険関係の手続きで社会保険労務士が代行することの結果を「成功」(成功しなければそこには「失敗」があるということになります)という表現をすることは適切ではないとされています。「100%〇〇の味方です」や「お客様第一主義」といった、公正さについて疑問を抱かせるような表現、「社会保険料削減」等の労働者の福祉の向上に反する文言や、使用者がいたずらに労働条件を引き下げることを促すような表現等も避けなければなりません。
④社会保険労務士の社会的責任について
社会保険労務士は、法によりその資格を付与され、公の信用力を背景に、定められた分野において独占的に業務に従事することが認められています。それは、社会保険労務士に対する社会の信頼に基づくものであり、社会保険労務士にはそれに応える社会的な責任があります。高度な専門性を持つ国家資格者として、社会保険労務士は、高い職業倫理をもって業務に向き合わなければならないことを常に認識しなければなりません。
社会保険労務士が行政機関等で指導等の業務をすることや、年金事務所での相談業務等を行うことがあるそうですが、業務を遂行する能力があれば、そこで社会保険労務士が自分の事務所の宣伝等を行い、場合によっては相談に来られたお客様を自分の事務所に誘引しても問題ないでしょうか。
行政機関等に相談に来られたお客様に対して、そこで業務を行う社労士が自分の事務所を宣伝し、お客様を自分の事務所に誘引するようなことをしてはいけません。ご質問のような場合、お客様は例えば「労働基準監督署」や「年金事務所」等に対し相談をしているので、その信頼を裏切るようなことをしてはいけないのは当然のことです。また、行政機関等の職員には、国家公務員法第100条や地方公務員法第34条により、守秘義務が課されています。行政機関来訪者に関する情報を外部の社労士事務所等に漏らすのは違法行為です。
また、社会保険労務士法第22条で「社会保険労務士は、国又は地方公共団体の公務員として職務上取り扱った事件及び仲裁手続により仲裁人として取り扱った事件については、その業務を行ってはならない」こととされています。相談等をした当事者の保護、社会保険労務士の職務遂行上の公正の確保、社会保険労務士の品位の保持という観点から、社会保険労務士の職責に反する行為を行うこととなる事件の処理をすることは禁止するという扱いになっているのです。
社会保険労務士は、依頼された仕事を断る自由が制限されているそうですが、どういう意味なのでしょうか。社会保険労務士は仕事を依頼されると断れないということでしょうか。
開業社会保険労務士は、正当な理由がある場合でなければ、依頼(紛争解決手続代理業務に関するものを除く。)を拒んではならない(社会保険労務士法第20条)こととされていますが、仕事の依頼を断ることができないということではありません。開業社会保険労務士は、社会保険労務士法により、労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するため、その専門家としての資格を認められ、独占的に業務を行う特別な立場を与えられているので、その立場及び職責に鑑み、契約締結の自由が制限されているのです。
それではいかなる場合に依頼を拒否できる「正当な理由」といえるかについては、社会保険労務士の公的な立場、職責のほか、業務運営の実情、依頼された事件の内容等を考慮する必要がありますが、例えば、依頼された事件が法令に違反するものであるとき、社会保険労務士の業務の範囲を超えるものであるときはもちろん、依頼された事務の内容からみて依頼者の希望の日時までに処理することが困難な場合等のように、依頼を拒む理由に故意性がなく、かつ、法律的、時間的、物理的にみて依頼に応ずることが困難とみられる相当な理由があるときは、「正当な理由」があるものとされています。
なお、例えば開業社会保険労務士の経験が浅い、あるいは自分が不得意とする分野についての相談である場合には、なるべくその分野に堪能な他の社会保険労務士を紹介するように努めるべきでしょう。
例えば、ある企業と紛争状態にある者から、その企業の顧問社労士に対し、その企業の労務管理等について指導・助言した記録等の開示を求められた場合、その顧問社労士は直ちに記録等の情報を開示するべきでしょうか。
社労士の守秘義務に関してですが、刑事訴訟上の証言、労働委員会の証言、行政機関の依頼、本人の承諾がある等の正当な理由がある場合には情報を開示してよいということになります。しかし、ご質問の場合はそれには該当せず、本人(この場合顧問先企業の事業主)の許諾なしに情報を開示することはできません。
開業社会保険労務士や社会保険労務士法人が、お客様に対するご案内として、具体的に助成金や障害年金等の受給金額をホームページ等で広告し、そこで例えば「障害厚生年金〇〇万円受給」等の表示、ご案内をしてもいいでしょうか。
受給例等に基づき受給できた金額を広告、宣伝するだけでは、その広告を見た方が過大な期待をすることになってしまうので適切とは言えません。
助成金や公的年金等の受給金額は申請する方の状況により異なることがあります。また、ご相談いただいても要件を満たさなければ受給できないことを明示するべきです。
開業社会保険労務士や社会保険労務士法人が、お客様に業務をアピールするため、社会保険労務士会に登録した事務所名や法人名(例えば〇〇社会保険労務士事務所、社会保険労務士法人〇〇等)とは異なる屋号、例えば障害年金については「〇〇障害年金相談センター」、助成金については「〇〇助成金サポートセンター、サポートオフィス」等の屋号を使ってホームページ等で広告宣伝を行っても問題ありませんか。
開業社会保険労務士や社会保険労務士法人が、登録された事務所名、法人名と異なる事務所名を使って社労士業務を引き受けることは社会保険労務士法違反となります。
「〇〇事務所」「〇〇相談センター」「サポートセンター」等の名称の如何にかかわらず、開業社会保険労務士は複数の事務所を設置することができず、社会保険労務士法人の社員は、所属する法人以外に事務所を設置することはできません(社会保険労務士法第18条第1項、第2項)。開業社会保険労務士は、1か所の事務所についてその名称及び所在地が登録事項とされています(社会保険労務士法第14条の2第2項)。また、社会保険労務士法人の社員が自己または第三者(ここでは例えば「〇〇障害年金相談センター」や「〇〇助成金サポートセンター」等)のために社会保険労務士法人の業務の範囲に属する業務を行うことは禁止されています(社会保険労務士法第25条の18)。
したがって、社会保険労務士業務を行う場合において、1か所の事務所について、社会保険労務士会に登録された事務所名以外の事務所名(屋号)で広告を行うということは、実際には存在しない事務所名で虚偽の広告を行っていることになります。社労士業務を行うにあたり虚偽・誇大広告等を行ってはいけません。
開業社会保険労務士が事務所の名称を、個人としての社会保険労務士と同じ名称、例えば「社会保険労務士〇〇〇〇(個人名)」としてもよいでしょうか。
事務所名が個人としての社会保険労務士と区別しにくいような名称の場合、顧客にとっては、業務を社会保険労務士事務所に依頼したのかどうかが判別しにくくなることがあり、不正を誘発する危険性が懸念されます。開業社会保険労務士の事務所名については、「事務所」であることがはっきりわかる名称にするようにお願いします。
例えば社労士が、社労士事務所以外の事業所、例えばコンサル会社が提案する勤怠管理に関連するアプリケーションソフトウェア等の広告物の中で、社労士の名前で適切な労務管理の重要性について意見を載せるようなことは問題ありませんか。
ご質問のように、社労士以外の業者の事業の広告物の中で、社労士が専門家として意見を掲載するようなことは、その内容が職業倫理上適切なものであれば問題ないでしょう。社労士には、業務に関する法令及び実務に精通していることはもちろん、職業人としての品位の保持と、公正な立場の維持、職務遂行における誠実さが求められています(社会保険労務士法第1条の2)。社労士として、職務の内外を問わず、社労士に寄せられる社会の期待と信頼に相応しい身の処し方を行うようにしなければなりません。
なお、例えば広告物の中で、社労士以外の業者と社労士が提携して社労士業務を行うように読み取れるような内容や、社労士以外の事業所と顧客、社労士との三者間で社労士業務について契約を行うような宣伝をしている場合は、社会保険労務士法第23条の2(非社労士との提携の禁止)に抵触することになります。
例えば開業社会保険労務士が、社労士事務所以外の事業所で外部から引き受けた厚生労働省管轄の助成金やその他労働・社会保険関係各種手続業務の関係書類を預かって内容を確認し、提出代行印等を押印することによって社労士が業務を行った扱いにすることについては問題ありますか? 書類の内容を社労士が責任をもってチェックするのであれば実務上支障はないと思うのですが。
まず、社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人以外の事業所が厚生労働省管轄の助成金やその他労働・社会保険関係各種手続を他者から引き受けるということ自体が、社会保険労務士法第27条違反です。ご質問の事案については、社労士が他の事業所から顧客を紹介されるようなケースとは異なります。社労士の独占業務である労働・社会保険関係各種手続業務(1・2号業務)において、社労士以外の者に社労士の名義を利用させること(名義貸し)は社会保険労務士法第23条の2に違反することになります。社労士は、違反行為を直接、又は間接的に助長するようなことをしてはいけません。
もし、ある社会保険労務士事務所が顧客から社労士業務を引き受け、その後その社会保険労務士事務所が突発的な事件等により人員体制が不足するような事態となった場合には、引き受けた業務を他の社会保険労務士事務所に再委託することはできますか。
他士業の事務所が社労士業務(社会保険労務士法第2条第1号及び2号に規定された労働・社会保険関係手続業務)を受託すること及びそれを社労士事務所に再委託することは禁止されていますが、ご質問のような場合に社会保険労務士事務所が他の社会保険労務士事務所に業務を再委託することについては禁止されていません。
ただし、顧客との信頼関係保持のためには、顧客から社労士業務を受託した社労士は、業務を他の社労士事務所に再委託することについて顧客に説明し、承諾を得る必要があります。
社会保険労務士になるには、試験に合格する以外に実務経験も必要なのですか? 実務経験がない場合はどうしたらよいでしょうか。
社会保険労務士になるには、社会保険労務士試験に合格しなければなりませんが、それ以外にも、所定の実務経験が必要とされます。
社会保険労務士法第3条第1項(資格)の規定に基づき、社労士となるための資格として、国家試験合格等に加え、「労働社会保険諸法令事務について2年以上の実務経験」又は「厚生労働大臣がこれと同等以上の経験を有すると認めるもの」が要件とされています。次の2つのいずれかとなりますので参考にしてください。
①企業等で2年以上の実務経験がある場合は、登録の際に「労働社会諸法令関係事務従事期間証明書(様式第5号)」を提出していただきます。
②企業等で2年以上の実務経験がない場合は、全国社会保険労務士会連合会が厚生労働大臣の認定を受けて「2年以上の実務経験」に代わる資格要件を満たすために実施する事務指定講習を受講していただきます。講習は、通信指導課程(4月間)と、面接指導課程(4日間)の組み合わせにより行います。この講習の修了者は「2年以上の実務経験」と同等以上の経験を有するものと認められ、社会保険労務士法第14条の2に規定する社会保険労務士の登録を受けることができます。
社会保険労務士試験に合格し、事務指定講習も受講すれば、すぐに社会保険労務士として仕事ができますか?
社会保険労務士試験に合格しただけでは、その他資格要件を満たしていても「社会保険労務士試験に合格した人」であり、社会保険労務士ではありません。社会保険労務士と名乗るためには、都道府県社会保険労務士会を経由して全国社会保険労務士会連合会に登録しなければなりません。例えば茨城県内に事務所等を設置している開業社会保険労務士や社会保険労務士法人の社員、また、県内の事業所の勤務社会保険労務士及び県内のその他登録会員は全員茨城県社会保険労務士会で登録の手続を行っています。登録していない人が社会保険労務士と名乗ることや社労士の独占業務を行うことは社会保険労務士法違反となります。登録の手続については、このホームページの「ホーム」→「社労士を目指す人へ」をご覧ください。
社会保険労務士試験に合格し、いずれ社会保険労務士として登録しようと思っているのですが、登録する前の段階で「社会保険労務士有資格者」と名乗ってもいいでしょうか。
社会保険労務士試験に合格しても、全国社会保険労務士会連合会に登録していないと「社会保険労務士」と名乗ることはできませんが、ご質問のように、社会保険労務士試験に合格し、登録していない状態で「社会保険労務士有資格者」と称することについては、実際には社会保険労務士ではないのに社会保険労務士であるかのような誤解を与えるため、適切とは言えません。
社会保険労務士試験に合格しても社会保険労務士として登録していない状態の人は、あえて言うなら「社会保険労務士試験合格者」です。
開業社労士として登録しても、例えば事情があってそれをあまり広く知られたくないような場合に、社会保険労務士会の会員名簿に掲載せず、事務所の所在地等も公開しない扱いにできますか?
開業社労士及び社会保険労務士法人の社員は、その氏名や事務所の所在地等を公開することとされています。平成19年6月22日に閣議決定された「規制改革推進のための3か年計画」に対応するため、平成20年3月14日に「全国社会保険労務士会連合会情報公開規則」が改正され、資格者に関する国民に有用な情報の開示を行う扱いとなっています。会員の情報の公開については、当時の規制改革会議からの要求に基づき、開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員として登録している者については、①会員の氏名、②事務所名称、③事務所所在地、④事務所連絡先(電話番号)について、都道府県会のホームページで会員情報を公開することとされています。
茨城県社会保険労務士会とは、どのような団体ですか。
茨城県内に事務所を設置する社会保険労務士や社会保険労務士法人の社員、茨城県内の事業所に勤務登録する社会保険労務士、茨城県内でその他登録する社会保険労務士は、すべて茨城県社会保険労務士会(以下「本会」といいます)の会員です。本会は、社会保険労務士法第25条の26に基づき厚生労働大臣の認可を受けて設立され、会員により運営される非営利団体であり、本会の組織活動を支える役員や各種委員会等のメンバーは原則として会員である社会保険労務士から選出されています。
本会の概要等についてはこのホームページの「ホーム」→「茨城県社会保険労務士会について」をご覧ください。本会の目的は、社会保険労務士会の会員の品位を保持し、その資質の向上と業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことです。そのために研修等を行うとともに、社会保険労務士制度の普及宣伝のための活動や関係行政機関に対する協力、裁判外紛争解決手続(ADR)機関の設置、その他社会貢献活動等を行っています。これらの活動等を通じて、本会は、会員のコミュニティとしても機能しており、会員の意見交換や専門家としての研鑽の場にもなっています。
また、本会は、全国社会保険労務士会連合会が行う社会保険労務士の登録及び社会保険労務士法人の届出に関する事務を行っています。
全国社会保険労務士会連合会とは、どのような団体ですか。
全国社会保険労務士会連合会(以下「連合会」といいます。)は、社会保険労務士法第25条の34に基づき全国の社会保険労務士会が厚生労働大臣の認可を受けて設立する特別な法人であり、全国の社会保険労務士会は連合会の会員という位置づけとなります。
連合会は、社会保険労務士会の全国的な連合組織として、社会保険労務士会の活動と機能の強化、拡充、また、その活動の全国的な統一を図るための団体であり、社会保険労務士会の会員の品位を保持し、その資質の向上と業務の改善進歩を図るため、社会保険労務士会及びその会員の指導、連絡に関する事務、社会保険労務士の登録に関する事務を行うほか、社会保険労務士試験の試験事務及び代理業務試験事務を行うことを目的としています。
社会保険労務士には「開業社会保険労務士」や「勤務登録」「その他登録」等の区分があるそうですが、その違いは何でしょうか。
社会保険労務士には「開業」「社会保険労務士法人の社員」「勤務」「その他」の4種類の登録の種別があり、勤務登録とその他登録を合わせて「非開業」として区分されることがあります。また、登録の種類によって社会保険労務士としての業務等が制限されることがあります。なお、開業から非開業への変更やその逆の変更など、登録の種別の変更は可能です。
登録の種別について簡単に解説すると下記のようになります。
①開業社会保険労務士
簡単に言うと、「自分の名前で」業として社会保険労務士の仕事をすることができるのが「開業社会保険労務士(開業社労士)」ということになります。開業社労士の仕事の仕方については、例えば大きな事務所を設置して事務員を何人も雇用している人や、自宅に事務所を構えて業務を行っている人もいるなど様々ですが、開業社労士は「事務所」を1か所設置しています。
②社会保険労務士法人の社員
「社会保険労務士法人」の社員である社会保険労務士は、法人に雇用されて勤務する従業員ではなく、社労士業務を組織的に行うことを目的として社会保険労務士によって設立された法人の社員(出資者)という位置付けであり、開業社労士的性格を持っています。
③勤務登録
開業社労士や社会保険労務士法人の社員以外の社労士(非開業社労士)としては、まず、社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人、あるいは一般企業の事業所等に勤務登録している社労士(勤務社労士)が挙げられますが、社労士事務所や社会保険労務士法人に勤務登録している社労士は、勤務している社労士事務所や社会保険労務士法人と別に独自にお客様と契約して社労士業を行うことはできません。また、それ以外の一般企業等に勤務登録している社労士は、勤務している事業所の従業員の手続き等、事業所内の社労士業務しか行うことができません。
④その他登録
「その他登録」の社労士は、社会保険労務士法に規定された社会保険労務士の業務を社労士として行うことはできず、そのため、無資格者でもできる労働相談等を行う際に「社会保険労務士」と名乗って相談業務を行うこともできません。自ら開業登録して社労士業務を行うことをせず、所属する事業所があってもそこで勤務登録もしない、例えば企業等に勤務していて開業登録はしない状況であり、しかもその企業内で社労士業務に該当する業務を扱う部署にいないようなケースで「その他登録」として社会保険労務士会に登録している場合があります。
「その他登録」については、社労士として業務を行うことはできなくても、社労士会の会員として、他の登録区分の会員と同様に連合会や所属する都道府県社労士会等が行う研修等への参加ができ、連合会や都道府県社労士会等から各種情報を得られる、他の社労士との人的ネットワークを形成することができる等のメリットがあります。
当社は社会保険労務士事務所でも社会保険労務士法人でもない一般の企業ですが、勤務する従業員の中に社会保険労務士として登録している者がいます。その従業員は社内での労働・社会保険関係手続を行うことはなく、社労士業務と関わりのない部署に所属しています。社労士業務を行わない従業員であっても社労士であれば、会社の名刺に「社会保険労務士」と記載しても問題ないですか。
ご質問のケースとしては、企業に勤務している従業員が開業登録をしている場合と「勤務登録」や「その他登録」のいわゆる非開業登録である場合の二つが考えられます。
まず、その従業員が勤務登録ではなく開業登録をしている場合には、個人事業主としての開業社労士は、自らの事務所の名刺に社労士と表示することはできますが、その社労士が一般企業等に勤務している場合に勤務先の事業所の名刺に社労士と表示することはできません。開業社労士として事務所を開設しながら他の事業所において社労士と称するのは社会保険労務士法第18条第1項(事務所1か所の原則)に抵触するからです。
社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人以外の一般の企業で、例えば営業等の社労士業務と関係のない部署にいる従業員が都道府県社会保険労務士会会員として「勤務登録」や「その他登録」をしている場合、その従業員は、自らが所属する企業の顧客等に向けて、対外的に社会保険労務士として労働、社会保険関係の指導・助言(3号業務)を行うことはできません。また、社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人以外の企業等が労働・社会保険関係手続業務(1・2号業務)を行うことはできないため、当然その企業内の社労士がその企業の顧客等の労働・社会保険関係手続業務(1・2号業務)を行うことはできません。
一般の企業等に非開業として社労士登録をしている従業員が在籍し、その従業員が社労士業務を行わない、あるいは社労士として社労士業務を行うことができない場合にその従業員が事業所の名刺に「社会保険労務士」と記載すると、対外的に社労士業務を行うことができるような誤解を与えてしまう危険性があるため、記載しないのが望ましいということになります。
開業社労士は事務所を1か所しか設置できないそうですが、開業社労士が他の開業社労士の事務所に勤務して仕事を手伝うことや、社労士事務所以外の一般の事業所等に勤務することは可能でしょうか。
おっしゃるとおり、社会保険労務士法の規定により開業社労士は事務所を2か所以上設置することはできませんが、開業社労士が他の事業所に勤務してはならないということではありません。ただし、開業社労士が他の開業社労士事務所に勤務するときは、社労士としてではなく「ひとりの従業員として」業務を行うこととなり、二つの社労士事務所で「社会保険労務士(社労士)」と名乗って業務を行うことはできません。また、開業社労士であると同時に他の社労士事務所に勤務登録するような二重の登録をすることはできません。
開業社労士が他の一般の企業等に勤務しながら自ら業として社労士業務を行うことについては、法律等で禁止されてはいませんが、勤務先事業所に就業規則等で副業禁止の規定がある場合は無理ということになります。また、雇われていれば時間的に拘束され、勤務先での仕事もしなければなりません。ライバルとなる他の社労士事務所も存在している状況で、二足のわらじを履いて社労士事務所として業績を伸ばすのは困難な場合が多いと思われます。
開業社労士は事務所を1か所しか設置できないということについては、言い換えると開業社労士として複数の事務所を兼務することはできないということになりますが、勤務社労士や社労士事務所に勤務している事務員は、他の社労士事務所を兼務することはできますか。
勤務社労士は複数の事業所を兼務する形で登録することはできません。しかし、社労士事務所に勤務する事務員が他の事務所の事務員を兼務することについては禁止されていませんので、社労士事務所に勤務する事務員の方が他の社労士事務所にも勤務することについては差支えないということになります。
ただし、社労士事務所には、業務についての機密保持や個人情報の保護等が高いレベルで求められるため、機密事項の取扱いや文書の管理等が適正に行われるよう注意が必要です。特に、何らかの事情で複数の社労士事務所が同一の住所に事務所を設置している場合には、業務の受付や連絡から費用の請求等に至るまで、業務全般において混同されないようにすることが、トラブル防止の観点から重要になります。
社労士事務所について、例えば自宅に事務所を設置し、事業が小規模で社労士が一人で業務を行っているような場合は、社労士事務所としての表示をしなくてもいいですか。
事務所の表示については法令上の定めはありませんが、開業社会保険労務士は、その事務所については例えば「〇〇社会保険労務士事務所」や「〇〇社労士オフィス」等の事務所名称を明確に表示するようにしてください。自宅に事務所を設置する場合については、事務所としての執務スペースと私生活の場をきちんと区別する必要があります。また、これは自宅に事務所を設置する場合以外も同様ですが、事務所として業務上扱う個人情報の保護等に十分配慮しなければなりません。
なお、社会保険労務士法人の場合は、名称に「社会保険労務士法人」の文字を使用することが社会保険労務士法第25条の7により義務付けられています。
例えば社会保険労務士事務所の業務量が増えるなどして事務員の増員とそれを受け入れる事務所スペースが必要となり、しかも適当な転居先がない場合、従来の事務所を設置したままで事務所とは別に作業スペースを借りて、そこでもその社会保険労務士事務所の事務を行うことは可能でしょうか。
社会保険労務士事務所において、業務拡大等により事務所スペースが手狭になることもあると思います。また、テレワークの導入等により、事務所以外の場所で業務を行うこともあり得ますが、そのような場合に、従来の事務所以外に別途作業を行う拠点(サテライト・オフィス等)を設置して、そこでも事務作業を行うことは可能です。ただし、社会保険労務士事務所として登録した事務所が別にありながら、登録した事務所以外の場所にも事務所と誤認させるような表示をし、あるいはその事務所以外の場所を広告宣伝し、そこでも依頼に応じる旨の周知をする場合は、社会保険労務士法第18条(事務所1か所の原則)に違反することになります。
開業社会保険労務士や社会保険労務士法人の業務案内について、ホームページやパンフレット、メールの署名等で、事務所以外の場所、例えば開業社会保険労務士や法人の社員の自宅や他の事業所の電話番号や住所等を相談窓口や文書等の送付先、問合せ先として案内してもいいでしょうか。窓口が複数あると利用者にとって便利だと思うのですが。
社会保険労務士の資格は特定の個人に与えられるものであり、資格を有する者自身が業務を行わなければならないという観点から、開業社会保険労務士は、社会保険労務士法により事務所を2か所以上設置することはできないことになっています(社会保険労務士法第18条第1項)。
事務所を1か所設置していながら、事務所以外の場所、例えば自宅や他の事業所にも事務所と誤認させるような表示をする、自宅や他の事業所の場所を広告宣伝する、あるいは自宅や他の事業所でも業務の依頼に対応できるよう自宅や他の事業所の住所や電話番号等の周知をするなどして、通常の事務所以外の場所も継続して業務を行うための場所として判断される場合には、社会保険労務士法違反となります。
社会保険労務士法人の社員が、その業務について所属する社会保険労務士法人の事務所以外の事業所等の住所や電話番号を案内することも社会保険労務士法違反となります。社会保険労務士法人の社員は、社会保険労務士法人という主体の下で業務を行うという立場上、社会保険労務士業務を行うための事務所を設けてはならないことになっています(社会保険労務士法第18条第2項)。また、社会保険労務士法人の社員が自己または第三者のために社会保険労務士法人の業務の範囲に属する業務を行うことは禁止されているため(社会保険労務士法第25条の18)、社会保険労務士法人の名称を表示しながら自宅や他の事業所の住所、電話番号等で業務を受け付けるような案内をすることは不適切ということになります。
株式会社や合同会社等の会社として社会保険労務士事務所を設置し、例えば「株式会社〇〇社会保険労務士事務所」のような形態で社会保険労務士業務を行うことはできますか。
事業所の名称の如何にかかわらず、また、事業所内に社会保険労務士がいたとしても、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社が社会保険労務士事務所として社会保険労務士業務を行うことはできません。開業社会保険労務士は、個人事業主としてその業務を行うための事務所を1か所設置し、その業務を行うこととされています(社会保険労務士法第18条)。また、社会保険労務士業務を組織的に行うことを目的として設立が認められている法人は、社会保険労務士法人だけです(社会保険労務士法第25条の6)。
開業社会保険労務士が社会保険労務士事務所とは別にコンサル会社を設置して「相談・指導」業務を行う場合、社労士事務所とそのコンサル会社の両方で「社会保険労務士」と名乗って業務を行うことはできますか。
社会保険労務士法に規定された社労士の業務のうち、1・2号業務(労働・社会保険関係手続業務)は社労士以外の者が行うことはできませんが、3号業務(相談・指導)は社労士でなければ行うことができないというものではなく、社労士事務所ではないコンサル会社等でも行うことができます。しかし、そのコンサル会社に開業社労士が所属していたとしても、その社労士は、自身の事務所以外の事業所で社会保険労務士を名乗って業務を行うことはできません。社労士事務所とコンサル会社の2か所で社会保険労務士として業務を行うことは、事務所1か所の原則に反することになります(社会保険労務士法第18条第1項、第2項)。
なお、ご質問の事項と関連して補足すると、社会保険労務士法人の社員が自己または第三者のために社会保険労務士法人の業務の範囲に属する業務を行うことは禁止されているため(社会保険労務士法第25条の18)、社会保険労務士法人の社員である社会保険労務士は、自分が社員である社会保険労務士法人以外の事業所で社会保険労務士業務を行うことはできません。また、例えばコンサル会社に勤務社労士がいたとしても、その勤務社労士は事業所内の従業員等に関する業務しか行うことができないため、対外的に社会保険労務士と名乗って業務を行うことはできません。したがって、社労士事務所や社会保険労務士法人以外の事業所で、対外的に「社会保険労務士(社労士)」と称して社会保険労務士法に規定された業務を行うことは、相談、指導等も含め、できないということになります。
複数の開業社会保険労務士が共同で一つの事務所を設置してもいいでしょうか。
開業社会保険労務士(社会保険労務士法人の社員を除く)は、それぞれが個人事業主であり、個人事業主として事務所を1か所設置することとされています。そのため、複数の開業社会保険労務士が共同で一つの事務所を設置、運営することはできません。
一つの社会保険労務士事務所に複数の社会保険労務士が在籍することはあり得ますが、それは、開業社会保険労務士事務所に勤務登録した社会保険労務士がいる場合と、社会保険労務士法人の事務所に複数の社員がいる場合や社会保険労務士法人の事務所に勤務社労士がいる場合です。
複数の開業社会保険労務士がグループを作って業務等を協力して行うような仕組みを作り、例えばある社会保険労務士事務所のホームページに「協力事務所」のような形で他の社会保険労務士事務所を表示して一般の方からの相談等を受けてもよいでしょうか。
開業社会保険労務士は、事務所を2つ以上設置することはできません。自分の事務所がありながら、それ以外に社労士業務を行うために別の名称の事務所を設置することは社会保険労務士法第18条に違反することになりますが、ご質問のように、複数の社会保険労務士事務所が協力するような仕組みを作り、ある社会保険労務士事務所のホームページ上に協力事務所として他の社会保険労務士事務所を表示すること等については問題ないとされています。ただし、複数の開業社会保険労務士が自分の事務所とは別に共同で事務所を設置し、そこで手続き業務等を行うことは、社会保険労務士法18条の「事務所1か所の原則」に反するため行うべきではありません。
また、ある社労士事務所が社労士業務を別の社労士事務所に再委託する場合は、顧客にその旨を説明し、承諾を得るようにしなければなりません。
例えば開業社会保険労務士に子があり、その子が社会保険労務士試験に合格した場合、親が設置している社会保険労務士事務所に子を開業社会保険労務士として受け入れ、一緒に事務所を運営することはできますか。
親子であるなどの特別な事情で同一の住所にそれぞれ開業社会保険労務士として事務所を設置して社労士業務を行う場合であっても、開業社会保険労務士であれば、登録上はそれぞれ別の社会保険労務士事務所という扱いであり、少なくとも電話やFAX、メールアドレス等は別々に設置していただかなければなりません。
一つの事務所に複数の社会保険労務士を在籍させることについては、通常、個人事業所の社会保険労務士事務所であれば、一人が開業社会保険労務士として登録し、それ以外の方はその事務所に勤務登録していただくことになります。社会保険労務士法人であれば社会保険労務士法人の社員として複数の社会保険労務士を在籍させることが可能であり、また、社会保険労務士法人の事務所に勤務登録する社会保険労務士を在籍させることも可能です。
開業社労士が事務所を設置するにあたり、ある特定の住所に登録上の事務所を設置しながら、実際の業務はそれ以外の場所で行うようにしてもよいでしょうか。
事務所として登録した住所に実態として事務所が存在しない場合や、いわゆる「住所貸し」で住所を提供するようなサービス、あるいは登録した住所で郵便物や電話の受付も含めて対応するような類似のサービスを利用し、社会保険労務士やその他従業員が常駐しない場所を社会保険労務士の事務所として登録することについては、社会保険労務士法違反となる危険性があります。
社会保険労務士法第18条における「事務所」の定義は、「開業社会保険労務士が継続的にその業務を執行する場所」であり、その判断は外部に対する表示、設備の状況、使用人の有無等の客観的事実に基づくこととなります。事務所として登録した住所において実際の業務ができず、業務上必要な各種書類の管理もできないような、事務所の体をなしていない状況では、そこは事務所の定義から外れることになります。また、登録した事務所がありながら実際には他の場所で業務を行っているということについても「その業務を行うための事務所を二以上設けてはならない」という社会保険労務士法第18条の規定に反することになります。
開業社会保険労務士の事務所については、業務活動の本拠として実際に業務を行う場所を登録するようにしなければなりません。
例えば社会保険労務士事務所が税理士事務所と同一の住所、同じ建物の中に設置されている場合、電話番号を税理士事務所と同じ番号としてもいいですか。
社会保険労務士は税理士と扱うことができる業務が異なり、税理士事務所で社労士業務(労働・社会保険関係手続業務)を行うことはできません。また、社労士事務所が税務代理や税務相談等の税理士業務を行うこともできません。独占業務の扱いについての混乱や契約上のトラブル、事故等を防ぐ意味からも、同じ建物に社労士事務所と税理士事務所、あるいは他の事業所の事務所がある場合でも、電話番号はそれぞれ別の番号にするような扱いにするべきです。
開業社会保険労務士や社会保険労務士法人が社労士業務の中の特定の業務、例えば障害年金について、都道府県社会保険労務士会に登録された事務所名と異なる名称の「障害年金相談センター」や「支援センター、申請センター、サポートセンター、オフィス」等を設置して業務を行うことはできますか?
開業社会保険労務士や社会保険労務士法人が、その事務所名、法人名と異なる事業所の名前を使って社労士業務を引き受けることは社会保険労務士法違反となります。
ご質問のような場合、仮に「〇〇障害年金相談センター」や「〇〇支援センター」「申請センター」等を設置し、そこの代表者等が社会保険労務士であったとしても、社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人以外の一般の事業所で障害年金(障害厚生年金、障害基礎年金等)の手続代行業務を行うことはできません(社会保険労務士法第2条第1項第1号、第2号、第27条)。また、「〇〇事務所」「〇〇相談センター」「社会保険労務士〇〇」等の名称の如何にかかわらず、開業社会保険労務士は複数の事務所を設置することができず、社会保険労務士法人の社員は、所属する法人以外に事務所を設置することはできません(社会保険労務士法第18条第1項、第2項)。
開業社会保険労務士は、1か所の事務所についてその名称及び所在地が登録事項とされています(社会保険労務士法第14条の2第2項)。また、社会保険労務士法人の社員が自己または第三者(ここでは例えば「〇〇障害年金相談センター」や「支援センター」等)のために社会保険労務士法人の業務の範囲に属する業務を行うことは禁止されています(社会保険労務士法第25条の18)。そのため、例えば「運営:〇〇社労士事務所、社会保険労務士法人〇〇」等の表記をしながら登録された社労士事務所や社会保険労務士法人の名称と異なる事業所名を使用し、「〇〇相談センター」等で社労士業務を引き受けるような宣伝は、誤解や混乱、契約上のトラブルの原因にもなります。また、行政区画の地名を冠した「〇〇年金相談センター」等の名称は、都道府県、市町村の公的機関等を詐称しているように見える場合があります。
社労士業務を行うにあたり「〇〇相談センターに相談しに行くと、そこで実際に業務を行うのは別の名称の社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人」というような品位を欠く手段で顧客を誘引することや、社会保険労務士事務所又は社会保険労務士法人でありながら、社労士業務について、都道府県社会保険労務士会に登録された事務所名や法人名と異なる名称の「〇〇相談センター」等を設置、運営することは、信用失墜行為であり、社会保険労務士法の規定に照らし適切ではないため、行うべきではありません。
社会保険労務士法人とは、どのようなものですか。
社会保険労務士法人は、社労士の業務を行うことを目的として、社労士が設立する法人です。平成15年4月1日施行の第6次社会保険労務士法改正により設立が可能となりました。社会保険労務士法人の設立にあたっては、定款の作成、認証、出資金の払込み、その他設立に必要な手続が終了したのち、その事務所の所在地において成立の登記をします。社会保険労務士法人の名称については、社会保険労務士法第25条の7により「社会保険労務士法人」の文字を使用することが義務付けられています。
社会保険労務士法人は、その成立のときに、社会保険労務士法人の事務所の所在地の都道府県社労士会の会員となりますが、成立の日から2週間以内にその事務所の所在地の都道府県社労士会を経由して「社会保険労務士法人設立届出書」を全国社会保険労務士会連合会に届け出なければなりません。 また、社会保険労務士法人は、その法人の社員である社会保険労務士とは別に法人会員として会費を納入しなければなりません。
なお、平成26年11月に可決、公布された第8次社会保険労務士法改正により、平成28年1月1日に、社員が1人の社会保険労務士法人(一人法人)の設立等を可能とする規定が施行され、それまで2人以上の社員による設立が要件となっていた社会保険労務士法人について、社員が1人でも社会保険労務士法人を設立することが可能となりました。
社会保険労務士法人は複数の事務所を設置できますか。
開業社会保険労務士と異なり、社会保険労務士法人は、その「主たる事務所」とは別に「従たる事務所」を設置することができます。ただし、社会保険労務士法人が事務所を設置する都道府県の社会保険労務士会に法人の社員として登録した社会保険労務士を事務所に常駐させなければならず、法人の社員である社会保険労務士が複数の事務所を兼務することはできないとされています。
また、それぞれの事務所を法人会員とみなして法人としての会費を納入しなければなりません。
社員が1人の社会保険労務士法人(一人法人)は複数の事務所を設置できますか。
社会保険労務士法人は、その「主たる事務所」とは別に「従たる事務所」を設置することができますが、その事務所には必ず社会保険労務士法人が事務所を設置する都道府県の社会保険労務士会において登録した法人の社員である社会保険労務士を常駐させなければなりません(勤務社労士やその他従業員だけでは不可)。そのため、社員が1人の社会保険労務士法人の場合は、1か所しか事務所を設置できないことになります。
社員が1人の社会保険労務士法人(一人法人)には「後継候補者」を定めておかなければならないそうですが、後継候補者には法的な義務等はありますか。
社員が1人の社会保険労務士法人(一人法人)の「後継候補者」には法的効力はなく、例えばその法人の債権債務等については相続人(遺族)が対象となります。
後継候補者の規定は、社員が1人である社会保険労務士法人の社員が亡くなるなどして業務を行うことができなくなった場合に、顧客が、これまでその社会保険労務士法人に委託していた業務をどうするかなど、対応に困ってしまうようなことを防止するための措置ということになります。その意味で、後継候補者は当然社会保険労務士でなければなりません。
社員が1人の社会保険労務士法人(一人法人)に「後継候補者」として社会保険労務士を定めておく場合、その一人法人の事務所がある都道府県の社会保険労務士会に登録した社会保険労務士でなければならない等の規定はありますか。
社員が1人の社会保険労務士法人(一人法人)の後継候補者は、社労士試験に合格しただけでなく、現に各都道府県の社会保険労務士会に登録している社労士でなければなりませんが、一人法人の後継候補者となる社労士は、当該一人法人の事務所が所在する都道府県以外の都道府県会に登録している社労士でもよく、また、開業でも非開業でも可とされています。
社会保険労務士法人の社員は、法人とは別に自分の事務所を持つことはできますか。
社会保険労務士法人の社員が、自らが社員となっている社会保険労務士法人とは別に社労士業務を行う事務所を設置することは、社会保険労務士法(第18条第2項)により禁止されています。
法人の社員である以上は法人の業務に専念することが要求され、法人との利害衝突を防止しなければなりません。社員には、競業禁止義務が課せられています。また、顧客の視点からは、ご質問のような場合を想定すると、業務を依頼した場合に社会保険労務士法人に依頼したのか個人の社会保険労務士事務所に依頼したのかがはっきりしなくなってしまいます。そのようなことは避けなければなりません。
一般企業に勤務登録している社労士が存在する実務上のメリットについて教えて下さい。例えば、会社の労働・社会保険関係手続業務は、当社では、自社の総務担当の従業員が行うことができますが、勤務登録をしている社労士がいる場合といない場合の違いはありますか。
社会保険労務士は、労働法や関係諸法令を専門とする国家資格者であり、社内の事情をよく知っている勤務社労士がいることで、外部のコンサルタント等とは違った視点から、労使トラブルを未然に防ぐことや、よりよい労務管理に向けた助言や提案が得られる等のメリットがあります。もちろん、社労士本人のスキルや知識に左右される部分もありますから、開業、非開業を問わず、社労士には常に自己研鑽が求められます。
労働・社会保険関係の手続業務に関しては、社労士が手続を行う場合は、社会保険労務士法第17条により、添付書類の省略ができる場合があり、業務の円滑化、効率化にも役立ちます。
勤務社労士は自分の名前で業として社労士業務を行うことができないそうですが、社会保険労務士の独占業務以外の業務、例えば労働に関する相談・指導等の業務については社会保険労務士でなくても行うことができるのであれば、勤務社労士も一般の方を対象として相談・指導等の業務を行うことができるのではないでしょうか。
社会保険労務士法第2条第1号及び2号に規定された労働・社会保険関係手続業務は法で定められた社会保険労務士の独占業務ですが、相談・指導等の業務(3号業務)は、社会保険労務士でなければ行うことができないというものではありません。社会保険労務士でない無資格者でもできる業務なのだから、勤務社労士が自ら行なうこともできるのではないか、というのがご質問の趣旨だと思いますが、そもそも社労士事務所や社会保険労務士法人に勤務登録している勤務社労士は、所属している社労士事務所や社会保険労務士法人と別に、独自に社労士の業務を行うことはできません。また、社労士事務所や社会保険労務士法人以外の一般企業等に勤務登録している勤務社労士は、勤務する事業所内の従業員等に関する業務を行うことしかできず、外部のお客様を相手に社労士業を行うことはできません。
そのため、勤務社労士が自ら外部の方を対象として労働・社会保険関係の書類作成や手続代行業務を行うことができないことはもちろんですが、無資格者でも行うことができる労働相談・指導等の業務を社労士事務所や社会保険労務士法人以外の一般の事業所等の勤務社労士が外部の方を対象として行う場合は、「社会保険労務士(社労士)」と称して業務を行うことはできないということになります。ですから、社労士事務所以外の事業所、例えばコンサルティング会社等が対外的な労働相談等の業務を行うと仮定した場合、その事業所の勤務社労士が相談業務を行うとしてもお客様に対して社会保険労務士と名乗ることはできず、「労務管理の専門家である社会保険労務士が相談に応じます」などと宣伝してお客様を集めることもできませんし、相談業務に際して社会保険労務士の肩書きを記載した名刺をお客様に渡すこともできません。
このように、社労士事務所以外の一般企業等の勤務社労士が業務を行うにあたり「社会保険労務士」と名乗れる場合と名乗れない場合があります。上記の対外的な労働相談等を行う場合以外、例えば勤務する事業所の社内における内部的な労働相談業務等を行う場合や勤務する事業所の従業員の労働・社会保険関係手続業務を行う場合は社会保険労務士と名乗ることができ、社内の労働・社会保険関係手続業務を行うためにその会社の勤務社労士が行政機関等を訪問したときは、社会保険労務士の肩書きを記載した名刺を窓口で渡しても構わないということになります。
私は社労士事務所に勤めている勤務社労士ですが、所属している社労士事務所の所長と意見が合わないところがあり、自分の知識を生かして仕事をしたいと思うようになりました。そこで考えたのですが、「社会保険労務士」と名乗らなければ、労働法関係の知識を活用して、勤務している事業所に対抗して、独自に、例えば「〇〇労働相談所」等を設置して労働相談・指導等の業務(3号業務)をすることはできますか。
事業における労務管理や労働・社会保険関係諸法令に関する相談・指導等の業務(3号業務)は、社会保険労務士でなくても行うことができます。しかし、勤務社労士は、社会保険労務士法第16条の2(勤務社会保険労務士の責務)で「勤務社会保険労務士は、その勤務する事業所において従事する第2条に規定する事務の適正かつ円滑な処理に努めなければならない。」とされており、それは勤務登録している事業所が社労士事務所であってもその他の一般の事業所等であっても同様です。社会保険労務士が独自に自分の名前で業務を行いたいのであれば、開業登録して行うのが本来のあり方です。
勤務社労士、あるいはその他登録の社労士が、いずれ開業しようとしている場合、業務に関するスキルや経験を得るため、また、見込客獲得のために無料で自分の名前で他人からの依頼を受けて社労士業務を行ってもよいでしょうか。報酬を得なければ業として成り立たないので、「業として行う」ことにはならないと思うのですが。
ご質問のような行為は、社会保険労務士法違反となります。社会保険労務士法第2条に社会保険労務士の業務についての規定があり、「~に掲げる事務を行うことを業とする」という文言がありますが、そこでの「業とする」とは、社会保険労務士法第2条に規定された社会保険労務士の業務を、反復継続して行う意思を持って、反復継続して行うことをいい、有償、無償の別を問わないとされています。「勤務登録」や「その他登録」の社労士(非開業社労士)は、例え無料であっても、自分の名前で社労士業務を引き受けることはできません。
職務上請求書は勤務社労士でも使うことができますか。
社労士には、職務上の理由で、委任状がなくても住民票や戸籍謄本を取得できる手段が用意されています。これを職務上請求といい、具体的には「職務上請求書」を関係行政機関の窓口に提出することにより、指定した人の住民票等を取得できます。もちろん、社労士がその業務を遂行するために必要な範囲で使用する場合に限られます。
その「職務上請求書」を勤務社労士が使うということについては、社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人に勤務する社労士の場合は業務上使用することはあり得ます。しかし、社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人以外の一般の事業所に勤務登録する勤務社労士の場合は、社内の従業員についての手続きしか行うことができず、実務上職務上請求書を使用することはありません。
社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人以外の一般の事業所に勤務登録している社労士が、他者からの求めに応じて労働・社会保険関係手続業務を行うことはできないため、その目的で職務上請求書を使用することもできないということになります。
勤務社労士でも自ら外部の方を対象に社会保険労務士と名乗って行うことができる業務としてはどのようなものがあるでしょうか。
例えば、成年後見人業務は社会保険労務士法に規定された社労士業務には該当しない位置付けであり、それを勤務社労士が自ら引き受ける場合において、社会保険労務士と名乗ることについては差し支えないとされています。都道府県社会保険労務士会によっては成年後見人業務の推進について組織的な取り組みを行っており、今後社労士にとって成年後見人業務がより身近な業務になる可能性があります。
また、社会貢献を目的として全国社会保険労務士会連合会と都道府県社会保険労務士会が推進する学校教育の事業において、学校の生徒、学生の方を対象として「出前授業」を行う場合は、勤務社労士も社会保険労務士として授業を行って差し支えないという扱いになります。
社会保険労務士が労働・社会保険関係書類の作成や提出をする場合には記名押印等をすることになっています。一方、勤務社労士は自分の名前で業として社労士業務を行うことができないことになっています。勤務社労士が行政機関等に提出する書類の作成等を行う場合、その勤務社労士は自分の名前を記して作成することもできないのでしょうか。
労働・社会保険関係書類の提出代行に際して勤務社労士が記名押印をすることについて、社会保険労務士法施行規則第16条第1項で開業社労士、社会保険労務士法人の社員、社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人に勤務する勤務社会保険労務士の区別なく、申請書等の作成をした場合には、当該申請書等の作成に係る社会保険労務士の名称を冠して記名押印するとの趣旨を規定しています。
記名押印の取扱いとしては、通達により、社労士が定型印を押印する際に、開業社労士や社会保険労務士法人の社員、社会保険労務士事務所及び社会保険労務士法人に勤務する勤務社労士の定型印については「提出代行者」の印影とすること及びその形状等が規定されています。また、それ以外の一般事業所の勤務社労士は「事務担当」の印影とすることが、同様に定められています。
特定社会保険労務士と名乗っている人がいますが、それ以外の社会保険労務士との違いについて教えて下さい。
特定社会保険労務士とそれ以外の社会保険労務士の違いは、裁判外紛争解決手続(ADR)において、特定社会保険労務士は代理人になれるが、それ以外の社会保険労務士は代理人になれないというところです。特定社会保険労務士は、社会保険労務士の中から「厚生労働大臣が定める研修」を修了し、「紛争解決手続代理業務試験」に合格した者が、その旨を連合会に備える社会保険労務士名簿に付記しなければなることができません。
最近増加している個別労働紛争(労働者と会社側とのトラブル)において、その解決手段として、裁判外紛争解決手続(ADR)が注目されています。これは、裁判によらないで、当事者双方の話し合いに基づき、あっせんや調停、あるいは仲裁などの手続きによって、紛争の解決を図るというものです。
特定社会保険労務士は、トラブルの当事者の言い分を聴くなどしながら、労務管理の専門家としての知見を活かして、依頼者のために、個別労働関係紛争を簡易、迅速、低廉な「あっせん」等の手続きにより、和解に導くことを目指します。
なお、特定社会保険労務士であっても、依頼者の代理人となれるのは、労働局のあっせんや社会保険労務士会が運営する「社労士会労働紛争解決センター」でのあっせんの場等に限られ、例えば労働者と会社側のあっせんの手続きの開始から終了までの間に直接和解の交渉をすることはできても、あっせん以外での個別の交渉において代理人となることはできません。また、あっせん等の手続外で申請人等を代理して和解することも認められません。
「社労士会労働紛争解決センター茨城」とはどのような機関でしょうか。また、「労働紛争解決」とありますが、どのような事件を扱っているのでしょうか。
「社労士会労働紛争解決センター茨城」は、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)」に基づき茨城県社会保険労務士会が設置、運営する民間の紛争解決機関であり、事業主と労働者との間の個別労働紛争を「あっせん」により解決することを目的としています。平成21年9月16日に法務大臣へ民間紛争解決手続の業務の認証を申請し、12月18日に認証されました(法務大臣認証第52号)。また、平成22年1月7日に厚生労働大臣へ同業務を行うことができると認められる団体の指定を申請し、同年3月1日に指定されました(厚生労働大臣指定第17号)。
「社労士会労働紛争解決センター茨城」が扱う案件は、解雇、配転、賃金未払に関することや、職場内でのいじめ、嫌がらせなどの労働関係に関する事項ですが、労働組合等が関与する集団的な紛争等、扱うことができない案件もあります。これまで扱ってきた事件の大部分が、解雇等の雇用の終了に関するもので、解決方法については、金銭(解決金)の支払いによる和解がほとんどです。
個別労働紛争の解決について、「社労士会労働紛争解決センター茨城」にあっせんの申立をすることにはどのようなメリットがありますか。
社会保険労務士会が法務省の認証と厚生労働省の指定を受けて運営する民間のADR機関である「社労士会労働紛争解決センター」は、紛争当事者の一方からの申立に基づき、第三者である有識者(社会保険労務士、弁護士等)からあっせん委員を選任して紛争解決に向け取り組みます。あっせん委員は公正、中立の立場で申立てについて申立人や被申立人の意見等を聴取したうえで審議し、和解に向けたあっせん案を提示します。
裁判等の他の紛争解決制度と比較したあっせんの特徴として主なものを挙げると下記のようになります。
①手続きが簡単です。
あっせんの申立てをしたい場合は、どのような事件なのかお知らせいただく必要がありますので、あらかじめ電話等で予約をしたうえで本会事務局にお越しください。事件の種類によっては「社労士会労働紛争解決センター」では扱うことができないことがあります。また、あっせん期日の場において、あっせん委員は申立人、被申立人双方から話を聞きますが、申立人と被申立人が直接顔を合わせることはありません。関係者のスケジュール調整により設定するあっせん期日には、申立人、被申立人に本会が指定する場所(茨城県社会保険労務士会館)にお越しいただきますが、それは通常1回で済みます。
②短期間で済みます。
申立てから通常1~3か月以内での解決を目指しています。それ以上の長期になるケースがまれにありますが、その原因としては、申立てに応じて話し合いをするかどうかについて被申立人の対応が決まるまでに時間がかかっている場合がほとんどです。
③申立てにあたっての費用が抑えられます。
社労士会労働紛争解決センター茨城では、申立についての手数料等はかかりません。ただし、関係書類を郵送する場合等の実費は別途かかります。
④手続きはすべて非公開です。
裁判は原則として公開ですが、社労士会労働紛争解決センターのあっせんについてはすべて非公開であり、あっせんの関係者以外に知られることはありません。また、あっせん委員を含め関係者には守秘義務が課せられています。
⑤和解には民法上の和解契約の効力があります。
申立人と被申立人双方の合意により和解した場合は、紛争の当事者及びあっせん委員の記名押印をした和解契約書を取り交わします。当事者双方に契約を守る義務が発生することになります。
なお、あっせんの制度の注意点としては、以下の通りです。
①あっせん期日への参加について強制力はありません。
被申立人があっせんの申立についての話し合いを拒否した場合はそれで終了になり、あっせん期日を設定しても強制的に出頭させるような扱いはできません。
②和解案についても強制力はありません。
あっせん委員から提示されたあっせん案について、紛争当事者は拒否することができます。しかし、被申立人の側としては、考え方によっては、あっせんの申立をされたことが紛争解決の近道になるということができます。非公開の場で個別の事件について専門家であるあっせん委員の意見を直接聞くことができるという機会を活用し、あっせんの制度を紛争解決に役立てていただきたいと思います。
「社労士会労働紛争解決センター茨城」のあっせん委員は、例えば事業所と労働者の間で紛争が起き、雇用の継続が不可能になった場合においても、その後それぞれの事業活動や生活があることを踏まえながら、労働法に関する専門知識や経験を生かして和解による解決を目指します。
「社労士会労働紛争解決センター茨城」にあっせん申立をすることができるのは、労働者に限られるのでしょうか。
「社労士会労働紛争解決センター茨城」は、労働問題を扱うあっせん機関であり、申立対象者を労働者に限定するものではありません。事業主側からの申立も可能ですので、職場のトラブルを簡易、迅速、低費用に非公開で解決するあっせんの制度をご活用ください。なお、あっせん委員は公正中立な立場であっせんに臨み、申立人を弁護するという立場ではないことも併せてご理解ください。
「社労士会労働紛争解決センター茨城」にあっせん申立をして受理されていれば、その後和解するに至った場合には大体申し立て内容の通りになるのでしょうか。
あっせん申立をした文書の内容は、センター長承認を経て被申立人に送付されます。しかし、あっせんの場において和解する場合であっても、必ず申立の通りになるということではありません。あっせん委員は申立人と被申立人双方の主張を聞いたうえであっせん案を提示しますが、初めの申立から申立人と被申立人が歩み寄るような内容で和解に至るケースも多く、また、申立人と被申立人両者の主張を聞くことによって、あっせん委員が専門家として、和解案が妥当なものかどうかを判断するというプロセスが、あっせんの重要な要素となっています。
「社労士会労働紛争解決センター茨城」にあっせんの申立をする場合には、弁護士や特定社会保険労務士に代理人を頼まなければいけないのでしょうか。
労働局や社労会労働紛争解決センターにあっせんの申立をする場合、弁護士や特定社会保険労務士に代理人になってもらうことはできますが、申立にあたって必ず代理人がいなければならないというものではありません。茨城県社会保険労務士会が運営している「社労士会労働紛争解決センター茨城」でのあっせん申立に関しては、代理人がいない場合の方が多いという状況です。ただし、労働紛争の解決のために労働関係に詳しい専門家に代理人になってもらうことについては、代理人の専門的な知識や経験を生かして紛争解決のための交渉等ができることや、紛争当事者の負担が軽くなる等のメリットがあります。
なお、あっせん期日には、代理人がいる場合であっても、できるだけ代理人だけではなく申立をした本人も出席する方が、合意の形成をするうえで望ましいといえるでしょう。
社労士会労働紛争解決センターに、もう一方の当事者に対し金銭の支払いによる和解を求める内容のあっせんの申立をするにあたり、申立人が特定社会保険労務士に代理人を依頼する場合は申立金額に120万円という上限があると聞きました。仮に申立てをする際の価額が上限金額以内であったとしても和解時の金額が上限の120万円を超えた場合には、既に代理人になっていた特定社会保険労務士は代理人を辞任するか、弁護士との共同受任に変更しなければならないのでしょうか。
平成27年4月1日施行の第8次社会保険労務士法改正により、社労士会労働紛争解決センターにあっせんの申立をする場合に特定社会保険労務士が単独で紛争の当事者を代理することができる紛争の目的の価額の上限は120万円となり、120万円を超える場合には弁護士との共同受任が必要とされています。
しかし、ご質問の場合のように、厚生労働大臣が指定する団体が行う個別労働関係紛争に関する民間紛争解決手続において紛争の目的価額が上限の金額である120万円以内であって、交渉を行った結果和解金額が120万円を超えるような場合は、申立において単独で代理人となっていた特定社会保険労務士はそのまま和解契約締結まで単独で代理人となることができます。
社労士会労働紛争解決センターへのあっせんの申立に際して特定社会保険労務士が代理人になる場合は、申立金額に120万円という上限があるそうですが、代理人を頼まずに申立者本人のみで申立を行う場合には、申立金額の上限はありますか。
ご質問のように、社労士会労働紛争解決センターに、特定社会保険労務士を代理人とせずに、本人があっせんの申立を行う場合、申立金額に上限はありません。
120万円の上限額は、社労士会労働紛争解決センターに特定社会保険労務士を代理人としてあっせんの申立を行う場合の規制(120万円を超える場合には弁護士との共同受任が必要)となっています。
個別労働紛争において、裁判外紛争解決手続(ADR)でのあっせんの申立を、労働者本人ではなくご家族の方等が行う場合、特定社会保険労務士はそのご家族の方の代理人になれますか。また、特定社会保険労務士が裁判外紛争解決手続において代理人となっている場合、その特定社会保険労務士の都合でその代理人業務を他の人に代理させることはできますか。
ご質問のような、労働者本人以外の方、例えば労働者の家族や、労働者が死亡した場合の相続人等が紛争当事者となる紛争については、特定社会保険労務士が行うあっせん代理業務の対象とはなりません。
特定社会保険労務士の代理人業務をさらに代理させることについては、あっせん代理業務について委任を受けた特定社会保険労務士が、他の者に当該業務を代理(復代理)又は代行させることは認められません。また、社会保険労務士法人(ここでは社員のうちに特定社会保険労務士がいる場合に限る)が受託したADRでの代理人としての業務を、その法人の使用人である特定社会保険労務士又は社員である特定社会保険労務士以外の者に代理させることはできません。
勤務する会社と労使トラブルになっているのですが、その会社の顧問社労士が特定社会保険労務士であれば、その社労士に個別労働紛争に関する裁判外紛争解決手続(ADR)について代理人になってもらうことはできますか。実は私はその社労士とは個人的に知り合いで、しかも会社の顧問社労士なので、その会社の労使トラブルについては事件を把握しやすいのではないかと思います。
話が少し複雑になりそうなので、便宜上、会社とトラブルになっているご質問の労働者の方をA、特定社会保険労務士をB、会社をC社としましょう。
このような状況では、その特定社会保険労務士Bは、例えばこの労使トラブルの事件(同一の事件)の解決についてC社から代理人としての業務を依頼されている場合は、社会保険労務士法第22条第2項第1号の規定(双方代理の禁止)により、この事件について労働者Aからの依頼を引き受けることはできないこととされています。その業務を受けることにより、特定社会保険労務士を信頼して依頼した顧客の信頼を裏切り、社会保険労務士の品位を失墜させることになるからです。
なお、このように、事件の一方の当事者の代理人になっているにもかかわらず、同一の事件の他方の当事者の代理人になること(双方代理)については、社会保険労務士法の規定だけでなく、民法第108条により禁止されているところです。
ご質問では、労働者Aは、C社との間でトラブルの発生により利害が対立しており、一方、特定社会保険労務士Bは、同一の事件についてC社から今のところ依頼を受けてはいないのかもしれませんが、Bは顧問先としてC社から報酬を得ており、BとC社との間には信頼関係があります。そのため、特定社会保険労務士Bは、AとC社との間の労使関係において紛争対立が発生している状況下で、Aからの依頼を受けるべきではありません。同一の事件で特定社会保険労務士Bが顧問社労士としてC社から相談・依頼を受ける可能性が高く、その場合、双方代理の禁止の規定に抵触する危険性があります。
ここで挙げた説明の事例と同一ではなくても、類似のケースで問題となることもあり得ますので、特定社会保険労務士の立場としても、職業倫理上十分注意が必要です。
当社が労働組合と団体交渉を行う際に、当社の顧問社労士に同席してもらうことや、団体交渉の席上で労働者側代表に対し社労士から直接意見してもらうようなことは可能でしょうか。
社会保険労務士は労働法と労務管理等を専門とする国家資格者であり、ご質問のようなケースでお役に立てることもあると思います。ただし、労使間の交渉事などにおいて社会保険労務士が依頼者の代理人となれるのは、個別労働紛争における労働局のあっせんや社会保険労務士会が運営する「社労士会労働紛争解決センター」でのあっせんの場に特定社会保険労務士が立ち会う場合等に限られています。
したがって、労働組合と事業所との集団的な労使関係について交渉を行う場合において、社会保険労務士が当事者の一方の代理人となることはできませんが、同席して依頼者とともに交渉すること、あるいは依頼者に指導・助言等をすることは可能です。例えば会社側に依頼されて社会保険労務士が団体交渉に同席する場合、社会保険労務士が処分権を持つ代理人として直接相手方に対し意思表示することはできませんが、会社側に対して助言等を行うことはできるということになります。
社会保険労務士が当事者の委任を受けて労使の団体交渉に同席する場合、代理権がないこと以外に注意すべきことは何でしょうか。
社労士が労使の団体交渉に出席する場合、団体交渉の冒頭において、社労士として出席するものであり、代理行為を行わないことを明確に表明するとともに、適正な労使関係を損なう危険性がある以下のような行為をしないようにしなければなりません。
①挑発的な言動を示す行為
②不当労働行為を示唆する行為
③労使双方が対立する論点について、一方の論拠にのみ基づく公平性を欠いた発言をする行為
社労士が会社役員又は労働組合役員ということもあり得ると思いますが、その場合、その社労士は、その所属する会社の労使協議や団体交渉に出席し、労働法の知識を活用して交渉に参加することはできますか。
会社と労働組合との交渉時に、社労士が会社側役員や労働組合の組合員として出席する場合については、制限はありません。
ただし、社労士が労使の団体交渉に出席する際に、その団体交渉に出席することを目的として事業所に雇用されたり会社役員になったりするのは、適正な労使関係を損なう行為として望ましくない場合があり、会則に基づく注意勧告の対象になることがあります。
社会保険労務士に仕事を依頼する場合、ある程度料金は決まっていますか? 例えば、労働者を1人雇い入れた際の労働・社会保険関係手続をする、あるいは就業規則を作ると〇〇円など、定価のようなものはあるのでしょうか。
以前は業務の種類に応じて全国社会保険労務士会連合会が定める報酬基準がありましたが、社会保険労務士法の改正により社会保険労務士の報酬基準は廃止され、現在は、社会保険労務士の報酬については自由化されています。そのため、業務の引き受け方(スポット業務、顧問契約等)や報酬の設定等については、社会保険労務士により異なります。
社労士事務所の中には、報酬額の概要をホームページ等で明示しているところもあります。報酬の額は、依頼された業務の内容等により異なってくることにもなりますので、依頼時に社会保険労務士から説明を受けるとともに、よく打ち合わせをするようにしましょう。
社労士が顧客と契約する際に、あらかじめ業務に関して価格を明示する必要はありますか。
社労士が社会保険労務士法第2条第1項各号に定められた労働・社会保険関係書類の作成、提出代行、事務代理及び相談・指導等の業務並びに法第2条の2の補佐人業務を行う場合は、社会保険労務士法施行規則第 12 条の 10(報酬基準の明示義務)に従い、報酬額の算定の方法その他の報酬の基準を明示することとされています。
社労士は、業務を引き受ける際の報酬基準について依頼者に対して丁寧に説明することにより、業務の受任後に報酬に関するトラブルが生じることのないよう対応しなければなりません。
社労士は、社労士に対し仕事を依頼しようとしている人から相談を受けた際に、場合によっては価格を吊り上げてもよいでしょうか。価格が高いか安いかを判断するのは依頼者であり、条件が合わなければ依頼者の方から断るのも自由なので、社労士側としても自由に価格を提示したいのですが。
ご質問のような、依頼者によって価格を吊り上げるような行為をするべきではありません。社会保険労務士法施行規則第12条の10により、社会保険労務士又は社会保険労務士法人は、社会保険労務士法第2条第1項各号に掲げる事務並びに法第2条の2第1項に規定する出頭及び陳述に関する事務事務を受任しようとする場合には、あらかじめ、依頼をしようとする者に対し、報酬額の算定の方法その他の報酬の基準を示さなければならないとされています。ご質問のように価格を吊り上げようとすると、報酬の基準を明示することが困難になることが容易に想像でき、また、報酬額も公序良俗に反する内容になる危険性があるため、社会保険労務士に対する信頼を失わせるものと言えます。
社労士には社労士しかできないことになっている独占業務がありますが、報酬を得なければ、社労士でなくても開業社労士が行うのと同様に労働・社会保険関係の手続業務を行ってもいいのでしょうか。
社労士でない者が他者の求めに応じ社労士業務(社会保険労務士法第2条第1項第1号及び2号に規定された労働・社会保険関係手続業務)を行うと、例え無料であっても「業として行っている」と判断され、社会保険労務士法違反として法に定める罰則が適用されることがあります。国家資格者である社労士は、全国社会保険労務士会連合会が発行する「社会保険労務士証票」と、所属する都道府県社会保険労務士会が発行する「社会保険労務士会会員証」を携帯していますので、ご相談される際には必ず確認してください。
また、不審な点があれば、社会保険労務士会又は連合会までお問い合わせください。
例えば税理士事務所やコンサル会社等に社労士がいる場合、その事務所やコンサル会社に社労士業務を依頼できますか?
社労士以外の他士業の事務所やコンサルティング会社等が社労士の業務(社会保険労務士法第2条第1号及び2号に規定された労働・社会保険関係手続業務)を行うことは社会保険労務士法により原則として禁止されています。また、他士業の事務所やコンサルティング会社等の下請けのような形で社労士が業務を引き受けることもできません。
「他士業の事務所やコンサル会社等に社労士がいる場合」としては、その事業所に勤務社労士がいる場合が挙げられますが、その場合は、その社労士はその事業所の内部の事項、例えばその事業所の従業員の方についての手続等の業務しか行うことができません。
それ以外に考えられるのは、例えばその事業所と同じ建物の中や近隣に開業社労士が事務所を設置している場合です。他士業の事務所やコンサルティング会社等に対し、たまたま社労士の専門分野に該当する事項についてお客様から相談や業務の依頼等があったような場合に、他士業の事務所やコンサルティング会社等が、そのお客様に開業社労士を紹介することもあり得ます。この場合は、紹介された開業社労士は、業務を引き受けるときは社労士事務所として引き受け、社労士が自分の名前でお客様と契約して社労士業務を行います。費用等の支払いについても、お客様はその社労士に直接支払います。また、税理士などの他士業の事務所やコンサル会社等で社労士の名称を使って広告、宣伝することや、社労士業務(社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる申請書等の作成、提出代行、事務代理、紛争解決手続代理業務、帳簿書類の作成等)を引き受けることは社会保険労務士法(第26条、第27条)違反となるため、看板などの表示やホームページ等で宣伝を行う場合にも、税理士事務所やコンサルティング会社等と社労士事務所が混同されないよう、それぞれの事業所や事業内容について明確に区分することが必要です。
他士業の資格とダブルライセンスの場合、例えば、一人の税理士が社会保険労務士の資格も持ち、税理士として、また、開業社会保険労務士(「勤務登録」や「その他登録」は不可)として税理士会及び社会保険労務士会に登録している場合はそれぞれ税理士事務所と社会保険労務士事務所を設置して業務を行うことができ、事務所の所在地が同一であることもあり得ますが、そのような場合でも、事務所はそれぞれ「別の士業の事務所」という扱いになります。
他士業の事務所やコンサル会社、サービス会社等が広告、宣伝や営業活動等を行って社労士に業務を依頼したい人を集め、社労士を紹介するような営業代行業務を行うことについては、問題がありますか?
ご質問のような場合、社労士業務の契約そのものは利用者と社労士が直接締結しているとしても、実質的にサービス会社等が顧客から社労士業務を受託し、その業務を社労士に再委託する形となると思われます。社労士が業務を行って得た報酬の一部が営業代行を行う事業所に入ることや、表面的にはそのようなお金の動きがなくても紹介元が何らかの利益を得ていることも考えられます。
たまたま社労士の知人や取引先等から顧客を紹介されるようなケースとは異なり、社労士又は社労士に似た名称を使うなどして顧客を集め、社労士と顧客との間に立って契約の便宜を図ることにより利益を得るような行為は社会保険労務士法により禁止されています。営業代行サービス会社等が営業活動をするにあたって、口頭、書面等で実際に業務を行う社労士や社労士法人の名義を使用することも社会保険労務士法違反となります。
社労士業務に関して社労士以外の事業所が介入するような事業活動は問題となることが多く、注意が必要です。不審な点がありましたら、社会保険労務士会又は連合会までお問い合わせください。
社会保険労務士は、その業務を社会保険労務士事務所以外の事業所等と提携して行うことはできますか。
社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人ではない、例えばコンサルティング会社等の事業所が社会保険労務士の独占業務である労働・社会保険関係の手続業務を社会保険労務士と提携して行うことはできません。最終的に業務についての契約を社労士と顧客が直接締結して、報酬も顧客から社労士に直接支払われている場合であっても、原則として社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人でない事業所が、業として社会保険労務士法第2条第1項第1号及び第2号の労働・社会保険関係書類等の作成及び提出代行業務を引き受けることはできません。このことはコンサル会社等の代表者が社会保険労務士であったとしても同様で、社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人以外の事業所の名義で、労働社会保険諸法令に基づく申請書の作成や提出等を受託することはできません。
例えば障害年金等の公的年金やその他社会保険・労働保険関係諸手続、中小企業の経営に役立つ雇用関係助成金申請等の業務について、社労士事務所以外の一般の事業所等と社労士事務所との間で「タイアップして業務を行う」、「パートナーシップを組む」等の業務提携の提案は、実際には違法となる危険性があります。一般の企業等で活用されているようなビジネスの形態が、社労士業務には適用させることができない場合があり、慎重な対応が求められます。
当社はいろいろな中小企業とお付き合いがあるのですが、あらかじめ社労士と申し合わせをして社労士を必要としている事業所に社労士事務所を紹介し、社労士事務所からそれに対し一定額の「紹介料」を支払ってもらうようなことは問題ないですか。顧客を紹介される社労士事務所にとっても、紹介料をもらう当社にとってもよい話だと思うのですが。
ご質問のような行為は社会保険労務士法第23条の2(非社労士との提携の禁止)に抵触することになります。非社労士が社労士と顧客との間に立って契約の成立の便宜を図るような行為は禁止されています。社労士が知人や取引先から顧客を紹介されるような場合は該当しませんが、社労士ではないのに社労士の名称を使用し、あるいは「紹介」と称していても実質的に他人からの求めに応じて労働・社会保険関係手続業務を引き受けるなどして常態的に違法行為を行っている者のあっせん行為に対して謝礼やその他実質的な利益の授受がある場合は問題とされ、これを利用しようとする社労士は非難されることになります。また、現実に顧問契約等の契約関係が成立していなくても違法とされることがあります。不適切な行為を行う事業所の介在により社労士の中立性が損なわれる危険性もあります。
社労士側としては、上記のようなあっせん行為について申し出をされても受諾の意思表示をしなければ違法とはなりませんので、危ない話はきっぱりと断ることが肝要です。
例えば「就業規則作成」や「助成金」等の社労士業務について、「専門家によるサービスの提供」などの形で社労士ではない業者が商品化して一般の事業所等に営業活動を行い、成約した場合には営業活動を行う業者が社労士をお客様に紹介する、そして紹介された社労士がお客様と契約して実際に業務を行い、顧客から社労士に支払われた顧問料等の料金の一部を、営業活動を行う業者に支払うという紹介ビジネスは問題ありますか。
社労士業務について顧客と社労士が直接契約している場合でも、ご質問のように、実態として営業活動を行う業者と社労士、顧客の3者間の契約になっていて、社労士の報酬の一部が紹介者に支払われるような取引の形態は、社会保険労務士法に違反することになります。社労士側は社会保険労務士法23条の2(非社会保険労務士との提携の禁止)に違反します。また、営業活動を行った業者は社会保険労務士法27条(業務の制限)に抵触することになります。社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、社労士業務(社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務)を業として行うことはできません。
社労士業務の中の特定の業務、例えば障害年金について、社労士が常駐する「障害年金相談センター」や「支援センター、申請センター、サポートオフィス」を設置し、そこで引き受けた障害年金受給手続代行業務を社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人に委託し、受託した社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人が障害年金受給手続代行の実務を行うような方法を取ることは可能でしょうか。
ご質問のように、開業社会保険労務士や社会保険労務士法人がその事務所名と異なる事業所の名前を使って社労士業務を引き受けるような行為は、社会保険労務士法に抵触するため、行うべきではありません。
例えば障害年金について「障害年金相談センター」や「支援センター、申請センター、サポートオフィス」等を設置し、そこに社会保険労務士がいたとしても、社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人以外の団体、事業所で社会保険関係手続書類の提出代行業務を引き受けることはできません(社会保険労務士法第2条第1項第1号、第2号、第27条)。また、開業社会保険労務士や社会保険労務士法人の社員はその業務を行う事務所を複数設置することはできません(社会保険労務士法第18条第1項、第2項)。
社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人側としては、社会保険労務士業務を社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人でない事業所から受託して行うことはできません(社会保険労務士法第23条の2)。
社会保険労務士の業務は国が法律で定めた業務であり、社会保険労務士は、定められた分野において独占的に業務に従事することが認められています。そのため、業務の引き受け方については厳格な扱いになっていることをご理解いただきたいと思います。
NPO法人や一般社団法人のような非営利の団体であれば、社労士業務に属する事項、例えば障害年金や助成金について一般の方から相談を受け、相談内容に応じて実際に労働・社会保険関係手続代行業務を行う社会保険労務士を紹介するような活動をすることができますか?
非営利の法人であるNPO法人、あるいは一般社団法人だから利益を上げてはいけないということではないのですが、営利企業であっても一般社団法人やNPO法人のような非営利の法人であっても、依頼人と社会保険労務士の間に入って利益を得るような行為は禁じられています。具体的には、例えば紹介料や手数料を取って社会保険労務士に顧客を紹介するような行為は社会保険労務士法違反となります。また、仮にこのようなお金の動きはなくても、実態として第三者である団体が顧客と社会保険労務士の間に入って三者間契約のような形で利益を得ている場合は、社会保険労務士側は社会保険労務士法23条の2(非社労士との提携の禁止)違反、団体側は社会保険労務士法27条(業務の制限)違反とされることになります。
社会保険労務士の業務について顧客と社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人の間に第三者である業者等が介在し、社会保険労務士が第三者から業務のあっせんを受けるような行為は職業倫理上問題があるとされています。社会保険労務士の業務は国が法律で定めた業務であり、社会保険労務士は、法律で定められた分野において独占的に業務に従事することが認められています。それは、プロフェッションとしての倫理(職業倫理)を伴うものであり、社会保険労務士の業務の引き受け方についても、通常のビジネスとは異なる規制があることに注意が必要です。
例えば社労士事務所が、ある事業所から給与計算業務を含む各種業務を引き受けた場合、給与計算業務については、社労士事務所ではない別の給与計算を専門に行う会社に再委託することはできますか。
ご質問のような扱いは可能です。ただし、社会保険労務士法に規定された労働・社会保険関係の各種書類の作成、手続き業務は、社会保険労務士事務所ではない給与計算会社が行うことはできないので、業務の線引きを明確にしなければなりません。
また、給与計算業務を行うにあたり、業務を引き受けた社労士事務所と給与計算事業所で個人情報等のデータを共有することもあり得ることから、業務の再委託やそれに伴う個人情報の取扱い等についての事情を顧客に説明し、承諾をもらうことが、トラブル回避のために必要となります。
ある会社が、自社の従業員の労働・社会保険関係諸手続きを子会社に受託させるなど、その会社の企業グループ内の他社が社労士業務(1・2号業務)に該当する業務を処理しても問題はありませんか。
ビジネスモデルとして、社内のある部門を分社化し、企業グループ全体で効率化や競争力の強化を図るような手法はよく見られると思いますが、自社の従業員の労働・社会保険関係手続業務を自社以外に行わせるということになると、それがグループ会社や親子会社である場合であっても、別の法人は社会保険労務士法第27条において「他人」に該当します。そのため、例えばシェアードサービス等によりグループ会社の労働・社会保険関係の書類作成や手続代行を一括して一つの会社が受託する、あるいはグループ内で親会社の労働・社会保険関係手続きを子会社が受託するとした場合は、社労士しか行うことができない業務を一般の会社が受託したことになり、社会保険労務士法違反となります。その会社のスタッフの中に社会保険労務士がいたとしても、その会社が労働・社会保険関係手続業務のアウトソーシングを受託することはできません。
労働・社会保険関係手続のアウトソーシングについては、社会保険労務士事務所及び社会保険労務士法人以外の一般の企業等が引き受けることはできないことにご注意ください。
当社は金融機関であり、お客様から年金に関する相談を受けることもあるのですが、顧客から公的年金の請求について質問や依頼等をされた場合、注意すべきことはありますか。
公的年金制度(国民年金、厚生年金保険等)の裁定請求関係手続の書類作成や提出代行は、開業社会保険労務士か社会保険労務士法人以外の者が業として行うことはできず、その金融機関等に勤務社労士が在籍していたとしても、その勤務社労士が一般のお客様の公的年金についての書類作成や提出代行を行うことはできません。例えお客様から手数料等を受け取らなくても、開業社会保険労務士や社会保険労務士法人以外の者が公的年金に関する書類作成や手続の代行を引き受けることはできません(社会保険労務士法27条)。
また、例えば金融機関等においてお客様から公的年金の手続等を引き受け、その後の年金事務所への提出等を社会保険労務士が行うことは、社会保険労務士法第23条の2(非社労士との提携の禁止)に違反します。公的年金についての関係手続の書類作成や提出代行は、年金の請求をするお客様が社会保険労務士に直接依頼し、手続を進めるようにしなければなりません。
労働保険事務組合は、社労士と同様の業務を行うことができますか?
労働保険事務組合は、「労働保険の保険料の徴収等に関する法律(労働保険徴収法)第33条第1項」により、事業主の委託をうけて労働保険料の納付その他労働保険に関する事項を処理することが認められており、その範囲において社会保険労務士法第27条(業務の制限)の適用が除外されます。労働保険事務組合は、社会保険労務士法第2条第1項第1号及び2号に規定された社労士業務の一部を行うことが認められている団体であるということができます。しかし、労働保険事務組合が行うことができる社労士業務は労働保険徴収法で規定された範囲内であり、労働保険事務組合は、社会保険関係の書類作成や労働保険の給付等に関する事務を行うことはできません。
労働保険事務組合には、中小企業事業主が労働保険事務組合に事務を委託することにより事業主が労災保険に特別加入できるようになる等のメリットもあるため、開業社労士が労働保険事務組合を設立し、事業を運営しているようなケースも見られます。また、社労士が単独で労働保険事務組合を設立することが困難な場合でも労働保険事務組合のメリットを活用できるように、都道府県によっては全国社会保険労務士連合会を通して都道府県社会保険労務士会を単位に厚生労働省の承認を受け、社会保険労務士が関与する「SR経営労務センター」等の労働保険事務組合が設置されていることもあります。茨城県では「SR茨城県労働保険事務組合」がそれに該当します。
開業社会保険労務士が労働保険事務組合に所属していることがありますが、その場合には、その労働保険事務組合で助成金関係の手続や社会保険関係手続を行うような内容の宣伝をすることはできますか? 労働保険事務組合で助成金や社会保険関係手続等を行うことはできませんが、実質的にその労働保険事務組合に所属している開業社会保険労務士が手続を行うのであれば実務としては可能だと思うのですが。
労働保険事務組合で厚生労働省の各種助成金の申請手続代行や厚生年金保険、健康保険等社会保険の各種書類作成や手続代行業務を行うことはできず、開業社会保険労務士が労働保険事務組合の構成員になっている場合は、各種助成金や社会保険関係手続については、その開業社会保険労務士が設置する社会保険労務士事務所で行わなければなりません。労働保険事務組合の業務案内チラシ、ホームページ等で各種助成金や社会保険関係手続を行う旨の宣伝を行って業務を引き受けることは、社会保険労務士法第27条(業務の制限)に抵触することになります。
労働保険事務組合に所属する開業社会保険労務士の側としては、労働保険事務組合で助成金や社会保険関係手続についての業務案内を行い、実質的な業務を社会保険労務士が引き受けるという行為は社会保険労務士法第23条の2(非社会保険労務士との提携の禁止)に抵触するため、助成金や社会保険関係手続などについては社会保険労務士事務所として業務案内や宣伝を行うようにし、労働保険事務組合と提携して業務を行っているような誤解を招く表現は避けなければなりません。
行政書士が社会保険労務士の業務を行うことができる場合はありますか?
一人の行政書士が社会保険労務士の資格も持ち、行政書士として、また、開業社会保険労務士(「勤務登録」や「その他登録」は不可)として行政書士会及び社会保険労務士会に登録しているというダブルライセンスの場合はそれぞれ行政書士事務所と社会保険労務士事務所を設置して業務を行うことができます。ここではそのようなケースは除いてお答えします。
行政書士と社会保険労務士はそれぞれ別の国家資格であり、扱う業務も異なります。ただし、社会保険労務士制度は、「労働社会保険関係の法規に通暁し、適切な労務指導を行い得る専門家」の制度として、昭和43年に制定、施行されたものであり、社会保険労務士法第2条の社会保険労務士の業務に規定されている同条第1号の申請書等作成の業務については、社会保険労務士法が制定される前は行政書士の業務分野でした。
そのため、社会保険労務士法が施行された際に、特例として社会保険労務士法施行(昭和43年12月2日)の際引き続き6ヵ月以上行政書士会に入会している行政書士は、社会保険労務士の資格を有することとされ、社会保険労務士法の施行の日から1年以内に免許申請を行えば社会保険労務士の資格を得られたという経緯があります。また、同時に行政書士の資格で労働社会保険諸法令に基づく書類の作成事務及び帳簿書類の作成事務ができるように規定が設けられました。そして、その後昭和53年の社会保険労務士法改正により、法第2条第1項第1号の2の提出代行権が社労士の業務に加えられた際に、行政書士については、既得権として社会保険労務士法第2条第1項第1号及び第2号に規定された書類等の作成業務を行うことが認められましたが、提出代行事務はできないこととされました。
さらに、昭和55年4月23日に成立した行政書士法の改正(行政書士法の一部改正及び社会保険労務士法の一部改正、昭和55年法律第29号、昭和55年4月30日公布、同9月1日施行)に伴い、昭和55年8月末日現在行政書士会の会員である行政書士以外は、社会保険労務士法第2条第1項第1号及び第2号に規定された書類作成業務もできないことになりました。言い換えると、昭和55年9月1日以降に行政書士会会員となった行政書士については、社会保険労務士法第2条第1項第1号及び第2号の労働・社会保険関係書類等の作成及び提出代行業務を行うことはできません。
したがって、昭和55年8月末日の時点で行政書士であり、しかも現在まで継続して行政書士である場合に限り、社会保険労務士法第2条第1項第1号及び2号に規定された労働・社会保険関係の「書類作成」はできますが、その場合であっても同条第1項第1号の2に規定された「提出代行」(申請書等の提出に関する手続を代わってする事務)はできないという扱いになります。
弁護士であれば社会保険労務士の業務を行うことができますか?
弁護士は、社会保険労務士の業務を行うことができます。それには二つの意味があり、まず、弁護士が行う「法律事務」は、法律に規定する事項に関連する事務全てを包含するものであることから、弁護士であれば、弁護士として社会保険労務士法第2条第1項第1号及び2号に規定された社会保険労務士の業務を、法令に基づく正当な行為として行うことができます(弁護士法第3条)。ただし、社会保険労務士が社会保険労務士法第2条第1項第1号の2に規定された「提出代行」(申請書等の提出に関する手続を代わってする事務)の諸手続をする場合に添付書類を省略できる「社会保険労務士法17条の付記」の扱いについては、弁護士として手続業務を行うのであれば、適用されません。
もう一つは、弁護士であれば、無試験で都道府県社会保険労務士会に社会保険労務士として登録することができます。
実際に弁護士が社会保険労務士の業務を反復継続して行っているケースは少ないと思われますが、弁護士であっても、社会保険労務士の業務に関与するのであれば、社会保険労務士の専門分野である労働・社会保険関係手続等や企業の労務管理等について、会員の指導や研修等を行っている都道府県社会保険労務士会の会員になり、社会保険労務士のコミュニティに参加することによる実務上のメリットはあると考えられます。
茨城県には水戸と土浦にそれぞれ「街角の年金相談センター水戸」、「街角の年金相談センター土浦」という公的年金についての相談窓口があるそうですが、「街角の年金相談センター」とはどのような機関ですか?
「街角の年金相談センター」(窓口数等の規模により「オフィス」という名称のこともあります)は、平成22年1月に設立されました。当時は平成21年12月31日をもってそれまで公的年金制度を担当していた社会保険庁が廃止され、平成22年1月1日より日本年金機構が設立されるなど、公的年金制度において大きな情勢の変化があった時期です。そのような中で、全国社会保険労務士会連合会への業務委託の要請を受けて、街角の年金相談センターは、日本年金機構から委託を受け、社会貢献に関する事業として全国社会保険労務士会連合会が運営し、今日に至っています。具体的な業務は、年金制度や年金請求に関する相談、年金の裁定請求等に関する届出書等の受付、点検等であり、手数料やサービス料等は一切かかりません。社会保険労務士会では、街角の年金相談センターに相談員として社会保険労務士を派遣し、関係団体として連携を取って質の高いサービスの提供に努めています。
「〇〇障害年金相談センター」や「申請センター」「サポートセンター」という事業所を見かけたのですが、そこは「街角の年金相談センター」と関係した機関なのでしょうか。
「〇〇年金相談センター」や「〇〇年金センター」「申請センター」「サポートセンター」と称する団体等が他にあったとしても、全国社会保険労務士会連合会や都道府県社会保険労務士会が関与して社会貢献事業を行っているのは「街角の年金相談センター」だけです。
社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人は業として国民年金、厚生年金保険についての相談を受け、独占業務として手続を代行することができますが、現在少なくとも県内に「〇〇年金相談センター」や「〇〇年金センター」「申請センター」「サポートセンター」という名称の社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人は存在しません。例えば「障害年金相談センター」等の名称を使用して、社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人以外の事業所が公的年金関係手続の代行を行うことは、例えそこに社会保険労務士が在籍していても、社会保険労務士法違反となります(社会保険労務士法第2条第1項第1号、第2号、第27条)。また、社労士業務を行うにあたり開業社会保険労務士は複数の事務所を設置することができず、社会保険労務士法人の社員は、所属する法人以外に事務所を設置することはできません(社会保険労務士法第18条第1項、第2項)。そのため、社会保険労務士事務所や社会保険労務士法人は、複数の屋号を用いて社労士業務を行うことはできません。
開業社会保険労務士は、1か所の事務所についてその名称及び所在地が登録事項とされています(社会保険労務士法第14条の2第2項)。また、社会保険労務士法人の社員が自己または第三者(ここでは例えば「〇〇障害年金相談センター」等)のために社会保険労務士法人の業務の範囲に属する業務を行うことは禁止されています(社会保険労務士法第25条の18)。開業社会保険労務士や社会保険労務士法人が、社会保険労務士名簿(全国社会保険労務士会連合会)に登録された事務所名、法人名と異なる事業所の名称を使って社労士業務を引き受けることは社会保険労務士法違反となります。
顧客を誘引するための手段として街角の年金相談センターや公共機関と類似した名称を使った違法な事業所等にご注意ください。